新たな国家IT戦略の肝となるオープンデータ:クラウド ビフォア・アフター(1/3 ページ)
日本は国際的地位の後退、少子高齢化や社会保障給付費増大、社会インフラの老朽化、東日本大震災における震災復興など、多くの課題を抱える“課題先進国”といっても過言ではない。こうした現状の閉塞を打破するため、政府は持続的な成長と発展に向けた戦略の柱として、特にビッグデータやオープンデータ、クラウドを新たなIT戦略のエンジンとしている。
高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)は5月24日、第2次安倍晋三内閣の「新たなIT戦略」として、『「世界最先端IT国家創造」宣言(案)』を公表した。
世界最高水準のIT利活用社会の実現と成果の国際展開を目標に、以下の3つの項目を挙げている。
1. 革新的な新産業・新サービスの創出と全産業の成長を促進する社会の実現
2. 健康で安心して快適に生活できる、世界一安全で災害に強い社会
3. 公共サービスがワンストップで誰でもどこでもいつでも受けられる社会の実現
新たなIT戦略の核となるオープンデータとビッグデータ
3つの柱において最初に記載されているのが、公共データの民間開放(オープンデータ)の推進と、ビッグデータの利活用推進(パーソナルデータの流通・促進など)だ。
公共データにおいては、オープン化を原則とする「open by default」の発想転換を行う。政府や独立行政法人、地方公共団体などが保有する多様で膨大な公共データを、機械判読に適したデータ形式で、営利目的も含め自由な編集・加工などを認める利用ルールに基づき、インターネットを通じてオープンデータとして公開する方針を示している。
欧州では、EU圏内のオープンデータを活用した市場規模を320億ユーロ(4.2兆円)、経済波及効果は約1400億ユーロ(18兆円)と算出している。国内総生産(GDP)比で日本に置き換えると市場規模は約1.2兆円、経済波及効果は約5兆円程度のインパクトがあると推定されており、オープンデータを通じて付加価値を提供していくことで、ビジネス創出と大規模な経済波及効果が期待されている。
地理空間情報や防災・減災情報、調達情報、統計情報などの行政機関が保有する公共データを、オープンなプラットフォームであるデータポータルサイトなどを通じてオープンデータとして公開し、民間企業や個人が保有する地理空間情報などのデータと自由に組み合わせて利活用することで、新産業・新サービスを創出する社会を実現することを目指している。
オープンデータの推進にあたっては、「電子行政オープンデータ推進のためのロードマップ(案)」を策定・公表している。ロードマップでは、公共データの自由な二次利用を認める利用ルールの見直しや機械判読に適した国際標準データ形式での公開を拡大するほか、2013年度中に各府省が公開する公共データの案内や横断的検索を可能とするデータカタログサイトの試行版を立ち上げ、2014年度から本格運用を実施する計画を立てている。
政府では、2014年度および2015年度の2年間をオープンデータ推進のための集中取り組み期間と位置付け、2015年度末には、ほかの先進国と同水準の公開内容を実現する目標を設定している。さらに、2013年6月5日、「第11回 産業競争力会議」で公表した成長戦略(素案)と成長戦略中短期工程表(案)では、2015年度中に、世界最高水準の公共データ1万以上のデータセットをオープンデータとして公開していくことを明記している。
また、オープンデータに加えて、顧客情報や個人の行動・状態などに関するライフログ情報の「パーソナルデータ」や、社会や市場に存在する「ビッグデータ」を相互に連携させ活用を推進することで、新ビジネスや官民協働の新サービスを創出し、企業活動、消費者行動、社会生活にもイノベーションを起こすことを目指している。
関連記事
- 公共データのオープン化が経済効果をもたらす 経産省
日本でも公共データの公開、いわゆる「オープンガバメント」が推し進められている。それによる成果は行政の透明化だけにとどまらないという。 - Weekly Memo:動き出した自治体クラウド市場
長崎県がこのほどサービスを始めた「自治体クラウド」を、他県にも積極的に提供していく方針を明らかにした。初めての自治体発のサービス提案に注目したい。 - クラウドで経営基盤の再構築を進める東北の中小企業
東日本大震災後、東北沿岸部の被災地の中小企業では、自社のサーバやパソコンが流され、経営にかかわる多くの情報を喪失するといった被害を受けた。被災地では中小企業の経営基盤の再構築が急がれており、政府は、被災地での中小企業の再生支援において、「クラウドサービスの普及による中小・ベンチャー企業支援」の取り組みを進めている。 - 東北で導入が進む自治体クラウドのこれから
東北各地で自治体クラウドへの円滑な移行と民間事業者の参入による経済波及効果が期待されている。そこで今回は、これまでの自治体クラウドの取り組みを整理するとともに、東北の被災地における自治体クラウド導入の現状と今後の展開について解説する。 - “上から目線”の排除が、電子政府推進のカギ
国連が2012年に発表した「国連電子政府サーベイ 2012」で日本は18位となるなど、電子政府の取り組みは遅れている。官公庁におけるIT活用の課題は何なのか、今あらためて考える。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.