トップ自らが進退をかけて挑む――起業家:若きリーダーが読んでおきたい1冊
今やサイバーエージェントの中核事業となった「アメーバ」。その陰には藤田社長が現場で指揮をとるという強烈なコミットメントがあった。
本書は、サイバーエージェント・藤田晋社長が半生を綴ったノンフィクション「渋谷ではたらく社長の告白」(2005年発刊)の続編と呼べる1冊。
前作では、起業への思いを抱くところから、会社の立ち上げ、東証マザーズ上場、ネットバブル崩壊、買収騒動までの時期が描かれており、本作は、その直後の2001年某日に「和解の会」という名目で開かれた、村上世彰氏や楽天・三木谷浩史会長兼社長などとの会食シーンから物語がスタートする。
本書の話題の中心は、同社の「広告代理事業」「ベンチャーキャピタル事業」に次ぐビジネスの支柱として、「メディア事業」をいかにして立ち上げ、成功に導くかという部分であり、その過程における苦悩や危機が実に生々しく語られている。
メディア事業というのは、ブログをはじめとする「アメーバ」ブランドの一連のサービスのこと。「ブログはサイバーエージェントの将来の柱となる事業、メディアができれば他の事業も好転していく」という強い思いを込めて藤田社長がスタートさせたアメーバ事業部だったが、2004年9月の「アメーバブログ」リリース直後からシステムトラブルが頻発し大混乱を招く。時を同じくして「ライブドア事件」が勃発。新興市場の株価が暴落し、同社も厳しい経営のかじ取りを迫られていた中で、アメーバ事業は赤字を垂れ流していた。
起死回生を図るべく、藤田社長は「アメーバ総合プロデューサー」という役職を名乗り、「もっとユーザーに支持されるサービスを作らないとダメだ」と事業部メンバーに渇を入れる。しかし事態は好転せず、ユーザー数もアクセス数も伸びないまま時が過ぎていた。ついには自らが現場に出て行き、アメーバ事業部長に就任する。前任者を更迭する際に「これでダメだったら、おれも責任とって会社辞めるからさ」と告げた言葉が決死の覚悟を物語っている。
このような強烈なコミットメントに加えて、藤田社長は「収益は一切見ず、とにかくページビュー(PV)だけを増やす」という一点集中の戦略を打ち出す。例えば、知らないうちにサイト内に広告枠が新設されているのを発見したときには、スタッフがそのまま硬直するほど激怒した。では、高いPVを獲得するためには手段を選ばないかといえば、決してそうではなかった。PVを伸ばすためにわざと不便な画面遷移を導入しようとした企画に対しては厳しく叱りつけたという。ユーザー視点のサービスを作るという徹底ぶりが、結果的に事業の大きな成功に結び付いたのであろう。
見せかけではない覚悟と揺るぎない信念――。リーダーシップの真髄を示した1冊といえるだろう。
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