あなた自身の人生を考える ――イノベーション・オブ・ライフ:若きリーダーが読んでおきたい1冊
大病を患ったクレイトン・クリステンセン教授が最後の講義で若者たちに伝えておきたかった“人生訓”とは――。
本書は「イノベーションのジレンマ」「教育×破壊的イノベーション」などを著した、ハーバード・ビジネススクール(HBS)のクレイトン・クリステンセン教授が、“個人の人生”について、戦略論を当てはめて語ったものである。
『イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ』 著者:クレイトン・クリステンセン、ジェームズ・アルワース、カレン・ディロン、翻訳:櫻井祐子、定価:1890円(税込)、体裁:四六判、発行:2012年12月、翔泳社
なぜ“人生”をテーマに取り上げるのか。HBSの同級生や過去の生徒たちは、どんどん裕福になり、キャリアや社会的ステータスも申し分ないのに、彼らの多くは家庭が崩壊していて不幸だったからだ。中には犯罪者になってしまい刑務所行きになった者までいた。仕事上のプロフェッショナルさと人生の幸せは共存できないものなのか? なぜ優秀で前途有望な若者たちが人生を踏み外してしまうのか? 同じような轍を踏まないよう、生徒たちに理論を通して「考えさせる」ようにしているのだ。
ビジネス理論を人生に生かすなんてできるのだろうかと、半信半疑に思われる方もいるだろう。しかしそれは、クリステンセン教授が自らの経験を語ることで実証してされていく。
第1部ではキャリア、第2部では人間関係、第3部ではモラルのジレンマと折り合いをつける――といったテーマで、10の講義から成り立っている。
第1部では、クリステンセン教授自身が本当はジャーナリスト志望だったことを打ち明けている。しかしなぜジャーナリストではなく、大学で教える道を選んだのか。企業戦略と人生を対比し、「人生の目的は何なのか」、そして、目標達成に向けた資源配分を行なうときの「優先順位」について自らの体験を通して語られる。
第2部の「幸せな関係を築く」においては、家庭生活について述べている。裕福ではなかった幼少時代、苦学生を経て、夫であり父親になったクリステンセン教授が家族を“運営”するために重んじたことは何だったのか。家族の温かいエピソードは、知恵や工夫に満ちあふれている。
第3部の「罪人にならない」は、タイトルでギョッとしてしまうが、誘惑に対するモラルの問題を取り上げ、決めた規律は98%守るのではなく、100%守るべきだと諭す。なぜなら「例外」を一度でも許すと、もう二度と守れなくなってしまうからだ。
クリステンセン教授は2007年に心臓発作、そして2年後にガン(悪性腫瘍)、さらに2010年には脳卒中と相次いで重い病気に見舞われた。抗がん剤と闘って髪が抜け落ちた身体に鞭打ち、最後の授業で伝えたかったことのすべてが凝縮されている、いわば人生のジレンマを乗り越えるための1冊だ。
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