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IBMのx86サーバ事業売却がもたらす波紋松岡功のニュース解説

IBMによるレノボへのx86サーバ事業売却の動きが、IT市場にさまざまな波紋を広げているようだ。

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IBMの製品群から姿を消した“Wintel”

 「レノボにx86サーバ事業部門が移ったとしても、開発、製造、販売、サポートにわたって引き続き同じ体制となるので、お客様にはこれまでと何ら変わりません、と申し上げている」

 こう語るのは、日本IBM理事でシステム製品事業本部x/Pureセールス事業部 事業部長を務める小林素子氏。日本法人のx86サーバ事業責任者である。同社が2月5日、都内で行ったSDN(Software Defined Network)関連の新製品発表会に出席した小林氏に会見後、x86サーバ事業売却について顧客にどう説明しているかを聞いたところ、こんなコメントが返ってきた。

 この事業売却の話は昨年から取り沙汰されていたこともあり、顧客の間で突然大きな混乱が起きるようなことはなさそうだが、これまで企業におけるITシステムの中核を担ってきたx86サーバをめぐる動きだけに、市場ではさまざまな波紋が広がっているようだ。

x86サーバ「System x」などがレノボに売却
x86サーバ「System x」などがレノボに売却

 改めて、今回の一件の概要を紹介しておこう。米IBMと中国レノボが1月23日、IBMがレノボのx86サーバ事業を売却することで合意したと発表した。買収額は23億ドル。IBMが売却するのはx86サーバ「System x」、ブレードサーバ「BladeCenter」「Flex System」などで、同事業に携わってきたIBM従業員のうち7500人ほどがレノボに移籍する。

 両社の合意は、利益率の低い事業から撤退してソフトウェアやサービスなど高付加価値事業へのシフトを進めたいIBMと、買収したx86サーバをテコに企業向け事業の拡大を図りたいレノボのお互いの思惑が一致した格好だ。

 ちなみに、IBMがx86サーバ事業を売却すれば、かつてPC事業も売却したことから、同社の製品群から米Intel製プロセッサと米Microsoft製OSを適用した“Wintel”製品が姿を消すことになる。1981年のIBM PC発売から33年の時を経て、IT業界の歴史の大きな節目を迎えたともいえそうだ。

x86サーバ市場が消滅する可能性も

 今回の動きの背景としてまず浮かび上がってくるのは、これまでx86サーバのコモディティ化が急速に進んできているということだ。コストパフォーマンスが飛躍的に向上しているといえば聞こえはいいが、価格がどんどん低下して安値のたたき合いになっているのが実態といえる。

 このため、x86サーバ市場はベンダーにとってまさしくグローバルでのビジネスボリュームの大きさ、つまりグローバルなシェア争いで上位に食い込めないと継続的な収益確保は難しいという戦いを強いられている。

 ちなみに、米IDCによるx86サーバを中心としたPCサーバ市場の出荷台数シェア(2013年7〜9月期)によると、米HPが29.7%、米Dellが21.4%で、両社だけで50%以上を占めている。今回、提携に合意したIBMとレノボはそれぞれ8.5%、2.6%。両社を合わせても11.1%で上位2社とはまだ差があるが、レノボは今回の事業買収を機に上位へ食い込んでいく構えだ。

 ただ、こうしたベンダー間のシェア争いとは別に、x86サーバ市場では受託製造会社によるユーザーへの直接出荷という新たな動きも出てきている。これはつまり、大手クラウドサービス事業者が、データセンターの効率運営を図るためにx86サーバを自ら設計し、受託製造会社に相当なボリュームを発注しているものだ。先ほどのIDCの調査でも上位2社に続く14.6%のシェアを占めるところまできている。既存ベンダーにとってこの新勢力は、ますます脅威になりそうな気配だ。

数年後のx86サーバ市場はいかに…?(イラストはイメージです)
数年後のx86サーバ市場はいかに…?(イラストはイメージです)

 今回のIBMとレノボの提携合意は、こうした市場の動きの中で起きた象徴的な出来事といえる。では、市場はこれからどう動くのか。ある事情通は今回の両社の提携合意を機に、「市場の動きの潮目が変わるのではないか」と読む。どう変わるのか。「企業のITシステムのクラウド化が進む中で、これからのx86サーバには標準化、仮想化による統合化、さらには自動化といったクラウドの構築・運用に不可欠な機能を装備することが一層求められるようになる。それは取りも直さず、クラウド基盤をめぐる戦いになる」という。

 確かに、x86サーバ市場のグローバルシェアで上位を占めるHPやDellなどの新しい製品を見ると、クラウド対応には相当力を入れている。一方で、先述した新勢力の動きからすれば、クラウド基盤をめぐる戦いとなると、IaaS型サービスを展開する米Amazon.comや米Google、Microsoftなども競争相手になってくるのは必至だ。

 そう考えると、IBMはこの分野の戦いに向けて、x86サーバ事業を売却する一方で、昨年夏に買収したIaaS型サービス「SoftLayer」に注力する構図が浮かび上がってくる。もしかすると、数年後にはx86サーバ市場そのものが、もはや存在していないかもしれない。

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