ボストンに学ぶ市民参加型コミュニティの管理と人材の役割:ビッグデータ利活用と問題解決のいま(3/3 ページ)
市民主体の「シビックテック(Civic Tech)」を活用する自治体にとって悩みの種は、コミュニティの活性化と安定的な運用管理の両立だろう。米国の古都であると同時に新しい起業家を輩出し続けるボストンの取り組みとはどのようなものだろうか。
ITとマネジメントの融合人材が支える市民参加型コミュニティ管理
ボトムアップ型のコミュニティエンゲージメントを採用すると、情報リテラシーの異なる市民との相互コミュニケーションを通じて、情報セキュリティ、プライバシー、ITガバナンスなど、様々な運用管理面の問題が起きる可能性がある。ボストン市の場合、行政のITは市民のための製品であるという視点に立って、市民参加型のオープンガバメント/オープンデータプロジェクトを本格展開する際に、「シビックコーダー」と「シビックプロダクトマネージャー」という2つの職種を新設している。
シビックコーダーは、先進的な技術や手法を利用して、一般市民が行政とより良い関係を結ぶためのツールを開発し、地域レベルの社会課題を解決して関係性を強化することが主な役割であり、地域住民を対象とするアウトリーチ活動やハッカソンなどを実施し、行政機関内部および外部の民間企業、NPO、教育・研究機関との連携を図っている。
他方のシビックプロダクトマネージャーは、ボストン市が市民向けに提供する「Discover BPS」、「Citizens Connect」、「StreetBump」、「Boston About Results」など、各種アプリケーションの基盤を支える市民関係性マネジメント(CRM)システムの統括責任者として、地域住民と行政機関との結び付きの状況を管理しながら、関係性の維持・拡張・強化を図ることが主な役割である。
いずれの職種とも、市民参加型コミュニティとの接点が大きいので、アプリケーションやWebサイトの開発に必要な技術知識に加えて、組織マネジメントやコミュニケーションのスキルが要求される。全体最適化の観点からITとマネジメントの融合が浸透する米国では、双方の知識・経験を兼ね備えた人材を育成するプログラムが発達し、それに基づくキャリアパスが地方自治体でも確立している。このような人材が、オープンデータの市民コミュニティに閑古鳥が鳴くことのないよう日々の運用管理を支えているのだ。日本の地方自治体がボストン流のコミュニティ運営の仕組みをそのまま移植しようとても、ITとマネジメントの融合人材がいなければ、結構ハードルは高い。
次回は、市民参加型のオープンデータプロジェクトが活発な欧州アイルランドの事例を交えながら、グローバルな観点からセキュリティ/リスク管理上の課題点を考えてみたい。
著者者紹介:笹原英司(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身、千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所などでビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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日本クラウドセキュリティアライアンス ビッグデータユーザーワーキンググループ:
http://www.cloudsecurityalliance.jp/bigdata_wg.html
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