アイルランドにみるビッグデータとセキュリティの世界動向:ビッグデータ利活用と問題解決のいま(3/3 ページ)
多数のインターネット企業が欧州の拠点を構えるのがアイルランドだ。北海道とほぼ同じ面積の小国ながら、ビッグデータの利活用とセキュリティやプライバシーなどにおける取り組みが注目されている。
ビッグデータの国際標準化に向けたテストベッドの役割を担うアイルランド
その他のビッグデータ分析研究拠点としては、ウォーターフォード工科大学に通信ソフトウェア・システムグループ(TSSG)があり、モバイル/メッセージング/ミドルウェア、エマージングネットワーク、データマイニング/ソーシャルコンピューティング、セキュリティ、モバイルサービス、デザイン/ユーザビリティに関する研究を行っている。
日本からは、NTTデータがTSSGとの共同研究開発に参画している(「NTTデータとアイルランド国立ウォーターフォード工科大学ICT研究機関TSSGが共同研究を開始)」参照)。
クラウド技術の観点からは、アイルランド政府商務庁および産業開発庁の支援を受けて、ダブリンシティ大学(DCU)、ユニバーシティカレッジ・コーク(UCC)、アスローン工科大学(AIT)が共同で設立した「アイルランド・クラウドコンピューティング・コマースセンター(IC4)」で、アーキテクチャ、サービスライフサイクル管理、ビジネス、モバイル/クラウドセキュリティを主要テーマとする国際共同研究が行われている。
クラウドセキュリティに関しては、検索可能な暗号化、プロパティベース証明、HTML 5脅威評価、クラウドセキュリティマトリックス、クラウド/モバイル実装における認証許可のためのリスクカタログ、攻撃ペネトレーションテストソフトウェア・プロトタイプなどの研究を行っており、コミュニティユーザーの視点から、IEEEやクラウドセキュリティアライアンス(CSA)が連携している。
主要なグローバルICT企業の欧州拠点が集中するアイルランドでは、EU域内および域外の海外企業も、早期段階から政府機関によるオープンデータ利活用プロジェクトに参加するケースが多い。また、アイルランド政府が推進してきた税制優遇策に対する批判が強まる中、国境を越えた様々なデータ連携が可能な環境の整備・開放は不可欠である。
その反面、EUデータ保護指令によって十分なデータ保護レベルを確保していない第三国への個人データ移転は禁止されている。また、欧州司法裁判所による裁定でも示された「忘れられる権利(right to be forgotten)」に関する条項を含むEUデータ保護指令改正案が、2013年10月に欧州議会で可決され、現在、施行に向けた準備作業が進んでいる。
このような状況の中で、データ保護規制や情報セキュリティ/リスク管理対策を巡るEU内外とのハーモナイゼーションを進めながら、アイルランドならではの強みを生かしたビッグデータ利活用の道を切り拓くことが課題となっている。日本企業も、ビッグデータに係る国際標準化の方向性を俯瞰できるテストベッドとして、アイルランドを注視すべきである。
次回は、EU諸国におけるIoTとビッグデータのイノベーションおよび法規制の動向を取り上げてみたい。
著者者紹介:笹原英司(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身、千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所などでビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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日本クラウドセキュリティアライアンス ビッグデータユーザーワーキンググループ:
http://www.cloudsecurityalliance.jp/bigdata_wg.html
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