「エンタープライズクラウド」は、どこへ向かうのか?:クラウドエバンジェリスト4者対談(2/4 ページ)
エンタープライズ領域におけるクラウド利用がいよいよ本格的に普及段階に入った。その理由と背景は何か。自社は、導入をどう考えればよいか。主要ベンダーのクラウド関連エバンジェリストに、現状とその未来を分析してもらった。
── 「“厳密な”クラウドサービスの普及度は5%」と述べている。まだそんなに低いのだろうか。
林氏 真壁さんの言う「5%」よりは、もっと多いだろう。JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の調べでは、数割程度であったと記憶している。もちろん、NISTの定義する“純粋なクラウドサービス”以外のものも含まれているだろうが、クラウド的なものは普及し始めていると感じている。特に大手企業はクラウドを強く意識しており、少なくともいずれかの部分で導入を始めている。
進んでいるのは、やはり製造業や小売業だ。彼らは、拠点を海外に持つため、クラウド化が必須と言える。一方、金融業などの別の業種は、まだこれからの段階にある。当社の売上比率も、業種や業態によって偏りがある。
神谷氏 ポイントは、NISTの定義する“純然たるパブリッククラウドサービス”が企業にとって必要かどうか、ニーズに合致するかどうかにあると思う。
NISTの定義が優れており、すべてのエンタープライズユーザーがそれにならうかというと、必ずしもそうはならないだろう。
クラウドの利用率という点では、5%よりも上だと思う。ただ、適用されているシステム領域を考慮すれば、ユーザーによって差があるはずだ。
例えばIIJの顧客には、社内のサーバの大半をクラウドへ移行したエンタープライズユーザーがいる。当社のインフラと他社のサービスを組み合わせてシステムを構築している。
IIJのサービスは、どちらかというとNISTが定義するパブリッククラウドというよりは、プライベートクラウドに近いものの方が多い。でも、現在のユーザーはそちらを求めていると考えている。
北瀬氏 調査会社のアンケート結果などでは、パブリッククラウドを全社的に活用しているか、あるいはごく一部の部署やシステムのみで利用しているかを区別していないのではないだろうか。「一部で使っている」という回答を含むのであれば、かなり普及していると感じている。一方で、全社展開という意味での普及率はまだ低いだろう。
例えば、パブリッククラウド上で仮想的なプライベートクラウドを専有する「ホステッドプライベートクラウド」は非常に引き合いが強い。これを純粋なパブリックと見るか、プライベートと見るかで数字は異なる。そのため、パブリッククラウドの利用率はどうかというのは、一概には言えないところがあるようだ。
これからの企業が、システムのあり方をどのように選択しなければならないかという点において、特に新規については「パブリッククラウドありきで話が進む」だろう。その上で、問題があればプライベートクラウドにするのか、オンプレミスシステムにするのか、決めていくことになるはずだ。
真壁氏 NISTの定義にこだわる必要はないが、そもそもクラウドにできないものを「わざわざクラウドっぽいクラウドではないもの」にする必要があるのだろうかと考えている。
ERPのように、長く利用するようなシステムで買った方が安いというようなものであれば、クラウド化する必要はないというのが、HPの考え方だ。
ただし、ポテンシャルを発揮できるものは、どんどんクラウド化した方がよい。特にモバイルとアナリティクスの2つの分野は、サイジングが困難である。このため、パブリッククラウドか、スケール可能なプライベートクラウドが適している。
HPも製造業者の観点でそうした考え方を実践している。巨大なオンプレミスのERPシステムを運用する一方で、コンシューマ向けビジネスのシステムや分析系などは、積極的にクラウド化を図っている。
「ハイブリッドクラウド」とともに「ハイブリッドIT」の考え方も取り入れて、使い分けていくのがよい。
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