京大病院がクラウドプリントシステムを導入した理由:京大病院の“情シス”に聞く(前編)(2/2 ページ)
電子カルテを中心としてIT化が進む医療現場。先進事例を数多く出す、京都大学医学部附属病院では、セキュリティを保ちながらWebページの印刷を行うために“クラウドプリント”を導入したという。同病院のシステム管理者に導入までのストーリーを聞いた。
仮想化システムと独立した印刷経路をクラウドで実現
画面印刷システムの構築へと動き出したのは2013年2月のこと。シスコシステムズの技術展覧会に講演で呼ばれた際、ブース展示をしていたコニカミノルタのクラウドサービス「INFO-Palette Cloud(インフォパレットクラウド)」を見つけ、導入を決断したという。
印刷用データ(イメージファイル)だけを通信するクラウドサーバを立て、シスコシステムズのスイッチ「Cisco Edge 300」を利用したプリンタサーバが印刷用データを取得、プリンタに出力する仕組みを構築した。仮想デスクトップとはまったく別の通信経路でプリンタにデータを送れるため、セキュリティレベルを落とさずにWebページの印刷ができるので「まさに“渡りに船”でした。監視する対象がプリンタサーバだけでいいので、運用も楽ですし」(黒田さん)とのことだ。
システムを導入する外来病棟では、プリンタがコニカミノルタ製ではなくリコー製であったため、導入に際してプリンタ全220台の動作検証を行ったそうだ。検証を終え、実証実験を開始したのは2013年8月下旬のこと。1つの診療科のみでのテストだったが、1週間で「行けるぞ!」と手応えを感じたそうだ。
約半年の実証実験を経て、2014年4月に外来病院の全診察室(171部屋)で運用を開始した。ログによれば、1日に約20件の印刷が行われているという。学術ネットワークなどユーザー独自で通信手段を用意するケースもなくなり、セキュリティが確保できたことが成果だと黒田さんは話す。
「物事を制限するだけでは問題は解決しません。逆にユーザーが想定外の方法を使うというリスクが生まれてしまい、セキュリティという当初の目的が達成できなくなります。ユーザーができることを最大限確保することがシステム管理者としての責任ですし、当たり前のことを自然にできるようにすることがトラブルを未然に防ぐのだと思います」
「医療×IT」のパイロットモデルに
仮想化やINFO-Palette Cloudなど、京大病院が新技術を積極的に取り入れる背景には、国立大学の附属病院であることが理由の1つなのだという。
「国立大学病院というのは、先端医療などのパイロットモデルであることが求められます。他ではやっていない取り組みを始め、それを成功事例として他の病院に広めていくことも重要なミッション。一連の取り組みも、最初はインターネット(クラウド)に接続しているだけで怒る人もいました。しかし、クラウドを利用したのはセキュリティレベルを上げるため。事例を通してこうした理解を広げていくのは大切なことです」(黒田さん)
黒田さんは今後、2016年度に予定している電子カルテシステムの刷新を見据え、新たな情報プラットフォームを整備するそうだ。「前回、京大病院が電子カルテシステムを変えたのは2011年。大学病院の電子カルテシステムは基本的に5年を目処に切り替えます。もちろんINFO-Palette Cloudは引き続き利用する方針です。2015年12月には病棟を1つ更新するので、2016年のゴールデンウィークを目処にシステムを刷新することを考えています」
システム刷新で目指すのは、本当の意味での“医療の電子化”だ。現状の電子カルテは、紙のカルテを電子化しただけにすぎず、電子化のメリットを享受できていないのが現状なのだという。(後編に続く)
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