情報共有で医療が変わる、“1患者1カルテ”を目指す静岡県の挑戦(3/3 ページ)
医師不足が叫ばれるなか、情報共有を軸とした業務効率化でサービスの質を向上させようとする取り組みが盛んだ。地域の医療機関が連携できるようにシステムを整備した静岡県。しかし、現場にITシステムが浸透するまでの道のりは平たんなものではなかった。
目指すは“1患者1カルテ”体制
こうした現場主体の改善活動を、富士通は「フィールドイノベーション活動」と呼んでいる。森氏は一連のフィールドイノベーション活動について、利用推進のきっかけを作ってくれたと評価する。
「会議だけでは分からないことがあると、現場に出向いて実態を可視化してくれた点は大きかったです。施策の方向性や目的が明確になったことで、病院という立場でも、診療所などの現場に入りやすくなった点もよかったですね。結果、各地域や病院が主体となってPDCAのサイクルを運用する仕組みが立ち上がりました」(森氏)
医療現場にITシステムが浸透するには何が必要か――。森氏はお金、事務作業、使い勝手の3点を挙げた。「お金と事務作業は言わずもがなですが、診療のじゃまにならないようなツールの使い勝手も重要になってきます。例えば、セキュリティの問題で面倒な作業が発生するようなときは、この場面でセキュリティがなぜ必要か、というところから説明して納得してもらわなければいけません」
今後は、総務省からの補助金に頼らない運営体制や、救急医療にも耐えうる24時間止まらない堅強なシステム作りといった点に注力していく。地域全体が1つの大きな病院に――。地域医療連携が目指す情報共有の姿は“1患者1カルテ”での運用だ。
「患者の情報を統一して運用することで、確実に医療の質は向上します。患者の情報がリアルタイムで更新されるようになれば、さらに正確な診断が行われるようになります。また、さまざまなケースが知見として貯まっていくことで、地域医療の担い手となる若い医師を育てる手段にもなり得ます」(森氏)
利用者数が増えているとはいえ、まだまだ道半ばだと森氏は語る。連携医療の必須ツールとして、すべての医療機関と患者をカバーできるのか。静岡県の挑戦は続いていく。
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