AIU保険はなぜ、有事に“平常運転”できるのか(2/2 ページ)
明日、会社に行けないような事態が起こっても、対処できる――。それが“有事に仕事を止めるわけにはいかない”損保の世界のBCP対策だ。ユニークな事業継続の施策で知られるAIU保険に、“備えのポイント”を聞いた。
資料に関しては早い時期からペーパーレス化が進んでいたが、特に保険金の支払部門では、損害査定のために顧客から提出してもらう資料など、紙で扱う業務が多く残っていた。シンクライアント化と同時にこれらをすべてPDFで確認できるシステムも構築し、オフィスに行かなければできない業務を減らしていった。
在宅勤務者の労務管理やパフォーマンス管理に関しては、ルールの整備とマネジメント層の理解促進という両輪で対応。「離れた場所で働く人の管理は難しいのではないか?」というマネジメント層からの懸念も払拭されたという。
AIU保険の場合、育児や介護などの特別な理由は求められず、希望者とその部門長が在宅勤務中の業務内容などを話し合い、合意の上で人事部に申請する。申請書にはいくつかのチェック項目があり、例えば仕事をする場所は自宅なのか、椅子やデスク、照明など、執務に適した環境があるかどうかを申告するようになっている。これによって、セキュアかつきちんと仕事ができる環境を確保できているか確かめるわけだ。
在宅で働く場合はほかにも、業務開始と終了のタイミングで上司にメールで報告すること、勤怠管理システムに勤務状態と時刻を入力することをルールにしている。
ただ、いくらルールを整備しても、部門長が必要性を認めなければ在宅勤務は広がらない。在宅勤務をする人自身、上司、同僚など、関係者みんなが納得する働き方にするためにも、部門長が在宅勤務の目的や意義を理解して部門内に周知することが重要である。
そのため、AIUでは説明会を繰り返し実施したが、在宅勤務者を増やす上で一番効果があったのは、実際にやってみてその結果を実感することだった。
導入当初は申請も少なかったが、実際に在宅勤務制度を利用した部門では、心配したほど仕事の質が低下しないことが分かったという。また、実施した社員からは、「自宅の方が仕事に集中しやすい」「通勤が不要になることで時間や体力的負担が減る」「家族と過ごす時間が増える」など、メリットを感じる声が多く聞かれた。そのような実態が徐々に他の社員にも伝わり、申請する人が増えていったそうだ。
抜き打ちの“オフィス閉鎖”で危機対応力を高める
AIU保険が在宅勤務制度を取り入れた重要な理由の1つは、BCPへの対応である。制度の利用者が増えてきているものの、実際にオフィスに出社できない事態が起きたときには、より多くの社員が在宅勤務や他拠点での勤務など、非常時の対応をしなければいけない。そのため、AIU保険ではオフィスの閉鎖訓練を実施している。
2013年度は東京の本社ビルで、2014年度には大阪と沼津で実施されたというオフィス閉鎖訓練は抜き打ちで行われ、社員は前日の夜に緊急連絡網の電話で初めて、オフィスに出社できないことを知る。そして翌日は他のオフィスに行ったり在宅勤務をしたりと、それぞれ事前に決められた方法やそのとき取れる手段で対応したそうだ。
当日は知らずにオフィスに来てしまう訪問者などもあるというが、大きなトラブルやクレームを発生させることなく訓練を遂行できるのは、やはり日頃の計画と準備の賜物だろう。制度を導入するだけでなく、効果的に活用できるルール作りや啓発活動を続けていくことの大切さを改めて感じる。
AIU保険では、自宅内に限らないテレワークの可能性も探るなど、より働き方の多様化を進めていく計画だ。そのために、セキュリティの強化などシステム面の課題を解決するとともに、マネジメントの仕方や働き方の改革を進めていくことを重視した取り組みを進めているという。
やつづか えり
1999年一橋大学卒。2009年デジタルハリウッド大学院修了。コクヨおよびベネッセコーポレーションで11年間勤務の後、フリーランスに。企業に対する教育系Webサービスやアプリの企画・開発支援を行うと同時に、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営中。さまざまな組織人にインタビューをし、多様な働き方、暮らし方と、それを実現するためのノウハウを紹介している。
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