第18回 日本は、なぜ「電圧100ボルト」なの?:テクノロジーエバンジェリスト 小川大地の「ここが変だよ!? 日本のITインフラ」
日本の商用電源電圧は主に100ボルト。これほど低い電圧の国は世界的にほとんどなく、採用するのは日本と北朝鮮くらいだそうです。……こちら、ITインフラ界隈ではどんな影響があるかご存じですか?
ここが変だよ、日本のITインフラ──。
この連載のタイトルを友人に伝えたところ、「そうそう、電圧が100ボルトなことが一番変で迷惑」と思いがけないコメントをもらいました。
どうにもならないことですが、海外から見るとそうなのかもしれません。最近仕事でもトラブルになったことがありますので、今回は少し趣向を変えてこんな身近な話題を取り上げたいと思います。
電圧が100ボルトなのは、北朝鮮と日本くらい
日本国内の商用電源電圧は、一般住宅・オフィス用が主に100ボルト、工業用が200ボルトです。実は、これほどの低い電圧は、先進国はもとより世界全体で見てもほとんどなく、採用するのは日本と北朝鮮くらいだそうです。
欧州はおおむね220〜240ボルト。北米は州によりますが住宅用は115ボルトや120ボルト、オフィスやデータセンターは230ボルトや208ボルトが一般的になります。
でも、一般生活で困っている方はまずいないでしょう。海外へ行くにも、例えば昨今のPCには100〜240ボルトに対応したACアダプタが付属しています。スーツケースに変圧器を入れる機会も減ったのではないでしょうか。
100ボルトの歴史的な理由
現職関係者数人に確認したところ、住居用電圧が100ボルトなのは安全性。100年前の日本家屋は木造が中心で、高電圧は危険だったからと聞いている──と話していました。
しかしながら、「なぜ100なのか、120ボルトではダメだったのか?」という理由は残ります。ネット上では、当時の主目的は電灯であり、100ボルトを超える電圧では電球が切れやすいから。と議論されているようです。
いずれも理に適った、納得のいく話です。ITインフラの方式検討の場において、たった1つの理由で方式決定することはないでしょう。おそらく100年前も、1つの理由だけで決定したのではなく、メリット・デメリットを複数挙げたのだと思います。(追記:2015/7/6 08:30)
100ボルトに加えて、15アンペア上限もある日本の電源事情
IT機器で問題になることがあるとすれば、持ち出しではなく「持ち込み」です。
先ほどのPCもそうですが、日本は世界的に見て豊かな企業が多く、IT機器販売の重要なマーケットです。また、ODM(相手先ブランド名で製造する)ベンダーが多く存在する台湾が日本に近い110ボルトなこともあり、サーバ・ストレージ・ネットワークスイッチなどのITインフラ機器も、ほとんどが100ボルト電圧に対応しています。
ここで注意していただきたいのが、ディスクストレージやブレードサーバ、以前ご紹介したハイパーコンバージドなどの高密度なデータセンター機器です。こういった高密度機器は電源スペースも限りがあるため、1700ワットなどといった大容量電源モジュールが用いられていることがあります。
物理で習った「W(電力・仕事率)=V(電圧)×A(電流)×力率(※)」という単純式を覚えていますでしょうか。先ほどの通り、日本の電圧は原則100ボルトです。さらに、住宅やオフィスではタップやコンセントといった配線設備のほとんどに15アンペアという定格電流が設けられています。このため、上限は1500ワット(100ボルト×15アンペア)ということになります。
※今回の説明では省いていますが、力率や効率と呼ぶ減衰も考慮します。
繰り返しになりますが、日本の住宅やオフィスでは基本的に1500ワットが上限です。しかしながら、1200ワットや1500ワットといった電源モジュールが実在するにも関わらず、1700ワットという大容量タイプを搭載する理由は、1500ワットを超える可能性があるからかもしれません。「メーカーから借りた評価機でヒューズを飛ばした」なんて話もありますので注意が必要です。
コンセント規格から、電圧と定格電流が簡単に分かる
100ボルトで1500ワット以上を流せるケースもあります。展示会やイベント会場、データセンターといった電力を多用する施設では、100ボルト電圧ながら20アンペアまで対応できる特別なコンセントを用意してくれるケースもあります。
最近はこういった電力事情もあるのか、かつて電算室と呼ばれたオフィスの小部屋へサーバを置くのではなく、外部のデータセンター施設をラック単位で借用する方法が一般的になりつつあります。
そこで最後に、データセンター担当者と会話する際に役立つ情報を1つお伝えしましょう。
先ほどの特別なコンセントは「5-20R」と呼ばれるものです。似たような言葉を耳にしたことある方は多いかもしれません。これらはNEMA(National Electrical Manufacturers Association)という米国の規格で、日本のデータセンターでも広く採用されています。その命名規則から、流せる電圧(V)や電流(A)値を簡単に知ることが可能です。覚えておいて損はないと思います。
※一部図中の表記に誤りがあったため、修正しました。(2015/7/3 16:30)
小川大地(おがわ・だいち)
日本ヒューレット・パッカード株式会社 仮想化・統合基盤テクノロジーエバンジェリスト。SANストレージの製品開発部門にてBCP/DRやデータベースバックアップに関するエンジニアリングを経験後、2006年より日本HPに入社。x86サーバ製品のプリセールス部門に所属し、WindowsやVMwareといったOS、仮想化レイヤーのソリューションアーキテクトを担当。2015年現在は、ハードウェアとソフトウェアの両方の知見を生かし、お客様の仮想化基盤やインフラ統合の導入プロジェクトをシステムデザインの視点から支援している。Microsoft MVPを5年連続、VMware vExpertを4年連続で個人受賞。
カバーエリアは、x86サーバ、仮想化基盤、インフラ統合(コンバージドインフラストラクチャ)、データセンターインフラ設計、サイジング、災害対策、Windows基盤、デスクトップ仮想化、シンクライアントソリューション
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