トヨタ役員の麻薬密輸事件から考える本当の事件対応とは?:萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(3/4 ページ)
トヨタ初の女性役員が逮捕された事件はショッキングだが、それ以上に驚いたのは同社の対応だ。実は昨今の情報セキュリティ犯罪にも通じる、企業として本当に実践すべき有事対応のポイントがみえてくる。
事件対応での重要点
企業で事件が起きた場合、なぜマスコミ対応が必要なのか、なぜ警察関係者への気配りが必要なのか――当たり前だが、そこでは人間が動いており、システムが自動的に事を進めているわけではない。だからこそ、せめてもの配慮をしながら発言する。
これを理解している企業なら、マスコミを忌嫌うのではなく、味方に付けるために会見を開く。そうでないと、記者会見でのまずい対応から倒産にいたった船場吉兆や雪印のような事態になってしまうだろう。今回のケースはそこまで酷い事態にはならないが、ある警察関係者は筆者に、「この会見で家宅捜索が早まった可能性がある」と言っている。
また、可能ならすぐに容疑を掛けられた人間に対して、顧問弁護士とともに事実を全てヒアリングし、客観的事実の状況証拠を徹底的に収集する。その間にIDやアクセスコントロールを無効にし、社内システムの利用はメールを除いて全て不可とするなど万一の証拠隠滅を絶対に防ぐ措置を講じる。会社にとって「最悪なケース」を想定した行動を直ちに取るべきだ。
この事件なら、発送元について現地法人の日本人スタッフが直接出向いて調査し、役員昇格前に現地で使用していたPCなども回収すべきだろう(実施済みかもしれないが)。当然ながらログデータも利用して、ハンプ氏の挙動の全て調べ、怪しげな動きがなかったのかなど、確認を徹底すべきだった。
状況証拠から明らかに確信犯と思われる場合、犯罪行為は「麻薬だけか」という視点だけではなく、「顧客情報の漏えいや特許前の機密情報の持ち出しはなかったのか」というところまで考えて対応するのが、リスク管理である。
豊田社長の発言を聞くと、いい意味でも悪い意味でも同社は「日本企業なんだなあ」と思ってしまう。しかし国際企業としては、そういう日本人的な誠意が通じにくい多様な文化的背景を持つ人材を抱えていることを熟知しているはずだが、トップの本音からは「まだ日本企業を脱却していないのだろう」という感じがしてならない。日本人としては複雑な想いだが。
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