トヨタ役員の麻薬密輸事件から考える本当の事件対応とは?:萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(4/4 ページ)
トヨタ初の女性役員が逮捕された事件はショッキングだが、それ以上に驚いたのは同社の対応だ。実は昨今の情報セキュリティ犯罪にも通じる、企業として本当に実践すべき有事対応のポイントがみえてくる。
国際企業としての対応とは?
今回の事件で世界的とされる企業であっても、良い意味でも悪い意味でも日本的慣習にとらわれてしまっている状況が分かった。だから、悪い意味での部分は早く進路変更をすべきだろう。
例えば、筆者の驚きで挙げた国際企業で女性役員が1人もいないというのは、明らかに会社側の怠慢になる。ノルウェーの場合、企業(国営も民間も)における役員の女性比率は法律で40%以上と決まっており、これに違反した企業には最悪のケースだと政府から「解散命令」が下される。
また、役員になる人物の調査もほとんど行われていない。極論だが、テロリストでも役員への道はあるというに等しいだろう。ハンプ氏の経歴をみると、たしかにGMやペプシコでの役員経験があったとはいえ、トヨタの米国子会社に勤務してわずか2年目の従業員を役員に抜擢したことは、異様に感じられる。ハンプ氏が日本人でも、そのような異例の人事は断行されたのだろうか。ハンプ氏が米国人だったから行ったのか。
国籍がどこであろうと、社内で実績と経験をしっかりと積み重ねた評価される人材を起用するのが、良い意味での日本の会社ではないだろうか。ここに「女性役員登用」が先にあったのではないかという疑問が残る。通常なら米国子会社の独自調査、本社の調査、そして、この人事上における専門会社の報告書など多方面からの視点で内容を精査し、その上で登用すべきはずだ。少なくとも、この様なチェック(防御)に漏れがあったことは否めない。
なお、トヨタのWebサイトにある「女性活躍推進に関する自主行動計画」では2004年に16人だった女性管理者が2014年には101人にもなっている。この数が役員なら世界的に評価される企業と言えるが、管理者である。2012年時点の従業員数は連結で32万5905人とあり、ハンプ氏はこの中でたった1人の女性役員だったということになる。どうしてこのような顛末になってしまったのかは不明だが、どうにもお粗末な感じがしてならない。
繰り返しになるが、マスコミ対応についても不適切な点があまりに多いだろう。今回ならほぼ明確な違法行為であるにも関わらず、「仲間を信じている」という発言してしまった。人間の心情としては理解できるが、やはり公の発言にはふさわしくない。犯罪をした時点で既に「仲間」ではないし、逆に「他に何か悪事をしていないのか?」と、適切に対応することが経営のプロだろう。
筆者は長年トヨタの自動車を愛用している。だからこそ、お伝えしたかった……。今回を教訓に、ぜひ良い意味での日本企業でありながら世界からも真に評価される企業になってほしい。
萩原栄幸
日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。
組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。
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