第4回 常時接続から始まったセキュリティ対策の“無間地獄”:日本型セキュリティの現実と理想(3/3 ページ)
連日のようにセキュリティの事故や事件が取り上げられ、守る側と攻める側との“いたちごっこ”の状態が続いている。なぜ、このような事態になったのか。今回はインターネットの歴史からひも解いてみたい。
2001年6月19日に始まった日本のブロードバンド時代
この当時は通常の数倍の速さで物事が進む「ドッグイヤー」と言われ、通信インフラの進化がまさにその通りだった。ほんの1年前(2000年)にサービスが開始された64kbpsの常時接続ISDNがADSLの登場であっという間に旧時代の遺物になってしまったのだ。ADSLは数Mbps級の当時としては驚くほど高速通信を実現する通信方式だ。実はフレッツISDNと同時期にはサービス開始していたのだが、試験段階を経たばかりであり、もちろん通信速度は全く違うことで、コスト面でも差があり、普及はもう少し先だと誰もが思っていた。
日本のブロードバンド時代の幕開け、それは突然だった。2001年6月19日ソフトバンクの孫正義社長がそれまでの他のADSLサービスに比べて半額ほどになる2000円台の「Yahoo!BB」を発表した。しかも、他の業者が提供していた1.5Mbpsを大きく上回る8Mbpsである。この時の勢いはものすごく、全くのゼロから翌年の2002年には100万ユーザーを突破したのだ。そのためNTT東日本/西日本ほかの通信事業者も追随せざるを得ず、ほぼ一夜にして高品質、高速、低価格を全て世界トップレベルにした事は日本の一大事件と言って良いレベルだろう。
多少余談となるが、この当時「パラソル部隊」と言われたなりふり構わない拡販戦術がすごい。街頭で当時数万円したブロードバンドルータを紙袋に入れて無料で配布した。時にはインターネットを使うつもりも無かった人にも配って、結局返品されるような笑い話もあるのだが、圧倒的な価格戦略の裏づけもあり、この強引なプロモーション活動が実を結んだのだ。
常時接続で始まったセキュリティの戦い
組織の外部からのサイバー攻撃は、ネットワークが接続されていないと成立しない。つまり、日本のセキュリティの戦いは2001年から始まった。これにより、ファイアウォールや暗号化などの初期のセキュリティ対策が常識化する流れが生まれ、現在につながる本格的なセキュリティの戦いの歴史がはじまるのである。
筆者は日本以外の通信環境にあまり詳しくないので、世界各国の環境については言及しない。ただ、世界各国も数年単位での差異はあるだろうが、この頃から家庭や個人の通信環境からでも、全世界へアクセスできるようになった。つまり、それと同時に全世界へ攻撃もできる環境が整ったのである。
次回は具体的なセキュリティの歴史をひも解く前に、他の分野での例をもとに、もう少しだけ文字を割いて本のセキュリティがめざす方向性を示したい。
武田一城(たけだ かずしろ) 株式会社日立ソリューションズ
1974年生まれ。セキュリティ分野を中心にマーケティングや事業立上げ、戦略立案などを担当。セキュリティの他にも学校ICTや内部不正など様々な分野で執筆や寄稿、講演を精力的に行っている。特定非営利活動法人「日本PostgreSQLユーザ会」理事。日本ネットワークセキュリティ協会のワーキンググループや情報処理推進機構の委員会活動、各種シンポジウムや研究会、勉強会などでの講演も勢力的に実施している。
- TechTarget連載:今、理解しておきたい「学校IT化の現実」/失敗しない「学校IT製品」の選び方
- 著書「内部不正対策 14の論点」(共著、JNSA/組織で働く人間が引き起こす不正・事項対応WG)
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