携帯電話の新規格、次世代携帯電話(IMT-2000)が早ければ年内にもお目見えするが、インターネットの世界にも「次世代」の波は押し寄せている。IPv6など通信技術面だけではない。一般の利用者にとって「高速インターネット」、インターネット利用回線の高速化はまさに通信形態が世代交代するほどのインパクトを持つ。その変革の決め手になるのが「ブロードバンド」、広帯域(通信網)の発展だ。
ブロードバンドって何?
ブロードバンドとは、現在の通信網の速度に比べて格段に速く、容量が大きい通信網を表現する言葉で、正確なスピードの定義などはない。ただ、ISDNが最速128kbpsであることを考えると、少なくとも数百kbps以上の速度が期待されるのは当たり前。光ファイバを次世代インフラの基盤とするならば、メガ単位の速度がブロードバンドと呼ばれるのにふさわしい通信網だと主張する通信事業者もいるほどである。
もともと、ブロードバンドとは米国のCATV(ケーブルテレビ)事業者が言い出した言葉で、光ファイバのCATV網を使ったインターネット通信サービスのキャッチフレーズだった。それが、日本でも1998年末頃から使われはじめた。主に専用線ではなく、光ファイバ公衆網を利用した企業向けのVPN(仮想専用線網)などを意味し、広帯域を言い換えて「ブロードバンド」と称したのが最初だという。
もっとも、ブロードバンドの実現手段は何も有線に限ったものばかりではない。例えば、設備投資が格段に安くて済む無線による次世代インターネットの実験が埼玉県で始められるなど、さまざまな技術が実用化を目指して次々に走りはじめている。
ライバルは続々と?
ソフトバンク、マイクロソフト、それに東京電力が出資したベンチャー通信事業者、「スピードネット」の無線インターネット接続実験は現在、2001年2月以降の事業化を目指して実証実験中。CATVやDSL(デジタル加入線)など、先行組の高速ネット接続サービスとの激しい競争に備え、埼玉県大宮市、与野市、浦和市周辺で接続状況などをチェック中だ。
競争相手となるほかの高速インターネット接続サービスは、一歩先に実用化の階段を駆け上っているところである。CATVインターネットの加入者数は着々と増え、DSL事業者も対応エリアを広げつつある。また新たに、光ファイバを引き込んだインターネット・ニュータウン、インターネット・マンションなども各地につくられており、わざわざ「ブロードバンド」を意識することもなく、常時接続の恩恵を受ける利用者も増えつつある。
そこで、利用状況やサービス料金の目安になってくるのはやはりNTT。「高速」とは言いがたいが、ISDN回線を利用した通信料定額のネット接続用サービス「フレッツ・ISDN」が全国で大人気となり、回線強化や設備投資が追いつかず、つい先ごろ(2000年9月の第3週)には、西日本で断続的にサービス停止のトラブルが起きたばかり。利用者は(接続速度が)より速いものを使いたいが、それよりも(接続料金が)安いものほど、もっと使いたいと考えているのは明らかだ。xDSLや無線アクセス系が、一般家庭にも手の届く料金体系でサービスが開始されれば、インターネットを利用する人々の世界観は大きく変わるに違いない。
さらに、今後普及する次世代携帯電話が、ブロードバンド・インターネットの「台風の目」になる可能性も見逃せない。若い世代ではすでにパソコンによる固定回線を利用したインターネット利用より、iモードなどの携帯端末を利用したメールチェックが当たり前になっている。動画が送信でき、テレビ電話が利用できる次世代携帯電話のポテンシャルは侮れない。
高速回線を使って、何を見るのか。ヒントは「3E」!?
ところで、次世代インターネットの普及でブロードバンドがインフラの基盤になる時代に、利用者はどのような情報を得たいと考えるのだろうか。企業であれば、例えば「テレビ電話会議」「プロモーションやイベント中継」など、放送回線よりも利用料金が格安で、自由度が高いインターネット回線を利用できるメリットは大きい。 しかし普及の対象は一般家庭なのである。ヒントは「教育(education)」「娯楽(entertainment)」「機能拡張(enhancement)」の「3E」にあるようだ。
ヒントその1 「教育(education)」
「教育」に関していえば、E-ラーニングは2000年後半の流行語になりそうな勢いだ。NTTラーニング・システムズ(NTT-LS)は協力企業30社と提携して、社会人を対象に、学習コンテンツを販売するオンライン・モールを先日開設したばかりである。それも、今までのようにIT技術者向けのものばかりでなく、テクニカル、ビジネス、資格取得などの分野で3000ものコンテンツを用意している点が「うり」だ。 もともと遠隔地教育や、予備校の全国授業などでは衛星放送によって、授業というコンテンツの送信が行われてきた。衛星放送受信設備のない家庭はあっても、電話回線や携帯電話を利用していない家庭は少ないだろう。学校にもインターネットが本格導入され、学校教育、自宅学習、生涯学習、カルチャースクールの授業など、コンテンツ候補も豊富だ。
ヒントその2 「娯楽(entertainment)」
娯楽でいえば、韓国でブームになっているオンライン対戦型ゲームが日本にも上陸してきたことが1つの象徴といえそうだ。 新しいゲームの配信や、自宅でのオンライン対戦などは今後急速に普及するだろう。
映画や音楽の配信も、ブロードバンド・インターネットの利用促進に拍車をかけそうだ。手に入りにくかった映画の旧作をオン・デマンドで配信してもらい、大容量のホーム・サーバやDVDに記録し、自宅でゆっくり楽しむといったことも実現可能になっている。いずれは新作映画の“配給”や、音楽コンサートのオンラインでのライブ中継などもビジネスとして始まりそうだ。
ヒントその3 「機能拡張(enhancement)」
機能拡張というと、今までのコンテンツとはやや傾向が異なるようだが、実は同じこと。パソコンの機能を向上させるツールや、ソフトウェアのバージョンアップが今までよりはるかにスピーディに、また簡単にオンラインでダウンロードできるようになる。そこで注目株になりそうなのが、オンライン・ショッピングの決済機能と、ネットワークに接続するときのセキュリティ機能の充実だ。
これまで、オンライン・ショッピングにおける決済方法は、プリペイドカード方式や電子マネーなど、さまざまな方法が発表されてきたが、いずれもぱっとせず、結局は代金引換やクレジットカードによる決済が主流になっている。しかし、ブロードバンドが普及すれば次の2つの点において、独自方式復活の芽もある。
1つは、これまでよりはるかに複雑かつ安全性の高い暗号化技術を、処理速度を気にせずに利用できるようになり、セキュリティ機能がアップすること。もう1つは、オンライン・ショッピング自体の利用拡大が見込めることだ。
言い換えれば、セキュリティ機能は、ブロードバンド・インターネットの普及によって、暗号化技術の利用が促進され、監視サービスの登場などでより一般の利用者に身近なものになることが期待できる。
良いことばかりとは…
もっとも、良いことばかりではない。ブロードバンド・インターネットの普及は、すなわち常時接続利用者の増加を意味する。常時接続となった場合、ネットワークに接続しているパソコンの管理者(パソコンの所有者?)が、ある程度のレベルのセキュリティ知識を持ち合わせていなければ、クラッカーの侵入による被害にあったり、SPAMメールの対象にされたりする恐れが生じるということを忘れてはならない。
それに加え、業界関係者は、インターネットの接続環境が変われば、利用者への新たな啓蒙が必要になるということを今後の課題として意識しておいた方がよいのではないだろうか。
Profile
磯和 春美(いそわ はるみ)
1963年生まれ、東京都出身。お茶の水女子大大学院修了、理学修士。毎日新聞社に入社、浦和支局、経済部を経て1998年10月から総合メディア事業局サイバー編集部で電気通信、インターネット、IT関連の取材に携わる。毎日イ ンタラクティブのデジタル・トゥデイに執筆するほか、経済誌、専門誌などにIT関連の寄稿を続けている。
メールアドレスはisowa@mainichi.co.jp
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