大人になったソフト・メーカー20年の時を経て、コンシューマから法人マーケットへIT Business フロントライン(30)

» 2001年03月16日 12時00分 公開
[三浦優子(コンピュータ・ニュース社),@IT]

「脱コンシューマ」を標ぼうするソフト・メーカー

 最近、ソフト・メーカーを取材していると、「脱コンシューマ」を標ぼうしているベンダが多いことに気付く。

 先日、久しぶりに記者会見を行ったファイルメーカー社では、冒頭、「これがわれわれのユーザーだ」とユーザー企業の名前をずらりとそろえたが、これは3年前には考えられなかったことだ。

 同社は米アップルの子会社で、マッキントッシュからスタートしたこともあり、「個人でも使いやすいデータベース」であることを常々アピールしてきたし、企業マーケットにどう切り込むのかよりも、「個人にとって使いやすいということを実現する」ことに注力してきた。そのベンダが、会見の冒頭、企業ユーザーの名前を挙げるようになったのを見て、「時代も変わったなあ……」と、妙な感慨を覚えてしまった。

 「時代も変わった……」という感慨を覚えたのは、1年前、シマンテックを取材したときも同様だった。あの黄色いパッケージの「ノートンユーティリティ」で知られるシマンテックだが、彼らもセキュリティ製品により、ビジネスの主戦場を企業マーケットに移行させようとしている。

 米国のユーティリティ・ソフト市場は、日本に比べ格段に大きいのだが、「パソコン本体の価格が下がったことで、パッケージ・ソフトも単価を低くしなければならなくなったために、パッケージ・ソフトだけで収益を上げるのは厳しくなった」と日本法人の成田明彦社長が話していた。

 ビジネスの主戦場を、個人マーケットから企業マーケットへ移そうとしているソフト・ベンダの事情は、各社で異なる背景によるものだが、複数の企業から同様の声が上がるということは、マーケットそのものが大きな曲がり角にさしかかっているからではないかと思う。

大型コンピュータのアンチテーゼとしてのパソコン

 思い返してみれば、「パソコン」というのはその名のとおり「個人が使えるコンピュータ」として誕生した。メインフレームを代表とする大型コンピュータは特定の人間にしか触ることを許さないものだったが、それに対するアンチテーゼとして生まれたのがパソコンであった。そうした誕生の由来からか、初期のパソコン販売にはゲリラ的要素があったように思う。

 日本を例にとると分かりやすいのだが、メインフレームのような大型コンピュータは直販や整備された販社網にのり、法人企業を中心とするマーケットで売られていた。そうしたマーケットを主戦場とすることを「大人」と表現すると、それとは対照的に、パソコンは東京・秋葉原、大阪・日本橋、名古屋・大須といった電気街をはじめとした、小売店舗の店頭中心のマーケットで販売されていた。

 パソコン黎明期の店頭市場は、現在のような大型店舗もなく、小さな店舗が多かった。それだけに、大人の市場を相手にしているコンピュータ・メーカーからは目を付けられることの少ない流通網であったわけだが、これをうまく活用することで成功したベンダが登場したわけだ。

 具体的な例を挙げれば、NECの「PC-98シリーズ」であり、ジャストシステムの「一太郎」である。いずれも先行するベンダ、製品があったにもかかわらず、店頭販売ルートを押さえたことで勝者となったのである。

 製品として優れているかどうかというのは前提条件ではあるが、初期のパソコン市場においては、「市場の勝者=先に流通網を作ったところ」であり、こうした店頭という販売チャネルを積極的に活用することで、売り上げを伸ばすベンダが多かったのである。つまり、パソコンというものは、大人たちが省みないようなところで商売をすることから始まったように思う。

 米国の流通事情は日本とは異なるため、日本の例をそのまま置き換えることはできないが、パソコンが大型コンピュータのアンチテーゼとして生まれたという点に関しては日本よりも強烈だったはずである。

メイン・ストリームへと成長したパソコン

 いまやパソコンはコンピュータのメインストリームとなり得る存在に成長したのは周知のとおり。すでにハードウェアに関しては、ベンダの主戦場は個人向けの店頭ではなく、企業向けに移行している。

 ソフト・メーカーが主戦場を企業に移そうとしているのも、パソコン・マーケットが完全に大人のものとなったからのような気がしてしようがないのだ。取材をしていて、そう口にすることはできないものの、「市場の成熟=パソコン市場が完全に大人の市場に……」ということではないのだろうか?

Profile

三浦 優子(みうら ゆうこ)

コンピュータ・ニュース社

1965年、東京都町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。

メールアドレスはmiura@bcn.co.jp


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