Bフレッツのムラはいつ解消するのか?情報化社会と通信事業者の社会的責務IT Business フロントライン(42)

» 2001年07月10日 12時00分 公開
[磯和春美(毎日新聞社),@IT]

 光ファイバを利用した超高速インターネットアクセスサービス、NTTの「Bフレッツ」がようやく本格サービスを開始することになった。サービス開始日は8月1日で、同時に現在最高3万2000円(月額)の接続料を大幅に引き下げ、最高9000円とする。また、ブロードバンド需要の拡大に配慮して最大100Mbpsのアクセスメニューを追加、ようやく実用的サービスとして格好がついた形だ。

Bフレッツの登場で、ADSLはどうなる?

 ところで、「Bフレッツ」が本格サービスに乗り出すことで、気になるのは同じNTTが提供している常時接続メニュー「フレッツ・ISDN」や「フレッツ・ADSL」の運命だ。NTT東日本では、Bフレッツ導入と同時にこれらのサービスの料金を引き下げ、今年度末の加入者数をフレッツISDN100万加入、フレッツADSL80万加入、Bフレッツ20万加入と見込んでいる。しかしBフレッツの10Mbpsを複数ユーザーで共同利用する「ファミリータイプ」が月額料金5000円となる「超高速」の時代に、せいぜい1.5Mbps(下り)のADSLや、128KbpsのISDNサービスが今後もそれほど「支持」されるものなのだろうか。

 そのヒントはそれぞれの提供される地域、あるいは条件にある。前号でBCNの三浦さんがADSLを導入できない実体験について書いておられたが、これらブロードバンドサービスの提供地域・条件は現時点で相当なムラがあるのが実情だ。そのムラは通常、いざ自分がサービスを「選びたい」と考えるまで、加入者側にはまったく知らされていないというのもまた事実なのだ。

 例えば、Bフレッツでいえば、本格サービスは当初、試験サービスを提供していた東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)で開始し、11月には23区と多摩エリアに拡大。NTT東日本のエリアに関して聞いてみると、その後も順次提供地域を拡大するとしているが、光ファイバ敷設のためのコストや利用状況の都合上、1年以内にはおそらく東京と神奈川主要部、千葉主要部くらいをカバーできれば御の字らしい。はっきり書けば「ビジネスとして元の取れないところは後回し、あるいはサービスしません」ということ。Bフレッツが提供されない地域ではADSLを、ADSLがダメなところはISDNを「支持」ならぬ「我慢」しなさい、ということだ。

ラストワンマイルの課題

 そのうえ、Bフレッツにはエリア以外の課題もある。Bフレッツは「ラストワンマイルまで光ファイバが入れられるかどうか」にかかっている。それも、インフラの問題とともに経済的な問題が絡んでくるから面倒だ。例えば、古い集合住宅などではBフレッツ利用はかなり難しいだろう。

 加入者系の光ファイバ化、すなわちラストワンマイルの構築は従来RT方式およびπ方式で推進されてきたが、本当の最後の部分である電柱から住宅まで(ラスト数メートル)は加入者負担で引き込まなければならない。通常、集合住宅方式では複数の利用者が合意することが求められ、しかも工事が伴うため管理組合でも合意形成が必要だ。あるいはもうすでに10年前、ISDNを導入しようとしてこの手の理不尽な「インフラ格差」に泣いた覚えのある人もいるかも知れない。

 光ファイバにおけるこうした格差がいつごろまでに解消されるのかは、NTT東日本も(もちろん西日本も)あまりはっきりとは言ってはいない。NTTにしてみれば、もともと2005年サービス開始予定だった光接続が2001年に前倒しになっただけで「もう一仕事終わった」という気分になっているのかもしれない。

帯に短し、襷に長し

 では、メタル回線で利用できるADSLはどうか、というとこちらも怪しい。NTTは全国サービス展開をうたっているが、実際には首都圏以外はせいぜい県庁所在地といったところだ。ADSLは既設のメタル線をそのまま利用するものだが、三浦さんのケースのように、電話局とユーザー間が一部でも光ファイバだけになっているとサービスを利用できない。また、利用したい場所が電話局からあまり遠いとスピードが出ないため、住宅が点在するような地域では利用価値のある人は少なくなってしまうことだろう。

 ISDNについてはBフレッツと同じく、集合住宅では導入が難しかったり、電話局によっては導入できないという弊害がかつてはあった。ただ、サービス開始後10年以上が経過し、昨年には1000万回線を超える普及実績があるので、実際には一番安定的に利用できるといえる。しかしながら10年前のパソコン通信時代は高速に感じられた128Kbpsも、いまやPHSのわずか2倍。「ブロードバンド」はISDNを完全に時代遅れにしてしまった。しかも、ISDNはADSLに干渉するため、電話局や付近の回線状況によってはADSLの転送スピードを遅くしてしまう可能性も指摘されている(この干渉の問題は、技術的には一応の解決はされているが)。時代遅れに加えて、いまやブロードバンド普及の邪魔者では、ISDNも報われまい。

デジタルデバイド解消にもっと本腰を

 インフラの問題は軽く考えがちだが、実は深刻だ。住んでいる場所や建物によって、利用者が望んだわけでもないのに受けられるサービスの質が勝手に変わってきてしまう。

 そのインフラを一手に担ってきたのは天下のNTTだ。電話は使えるがインターネットに接続しようとすると使いにくい、というような設備投資を“してしまった”先見性のなさはもはや問わないが、政府もe-Japan計画で2005年にFTTHによる超高速インターネットを1000万回線まで普及させる構想を打ち出している折、光ではISDNやADSLのようなサービスムラを一刻も早く解消してほしいというのが利用者側の本音だ。

 しかしながら、ここでNTTに少し理解を示してみればいまや民間企業でもあるわけで、採算性のない事業はできないというのもまた事実だろう。とはいえ、NTTがコストに合わないと考えればサービスを行わない地域が出てくる──これは情報化社会において致命的な差別、デジタルデバイドに直結する。

 ここで解決方法がないわけではない。CATV会社や有線ブロードネットワークスのようなNTT以外の民間のブロードバンド接続事業者に頑張ってもらい、競争が激化することで、コスト優先ばかりでなく、市場シェアアップ優先の経営政策を取らざるを得なくなるのではないだろうか。

 サービスのムラがなくなることは、デジタルデバイド解消のまず第一歩だ。利用者がどこに住んでいても、どんな条件でも、用意されているサービスメニューを好きに選べることが重要なのだという点を、企業にはぜひ考えてもらいたい。

 さて、最後に私個人の考えを。ここはひとつ、NTTをサービス会社とインフラ保有会社に分割。インフラ敷設と保有・管理を行うインフラ保有会社のほうは、いっそのこと5年か10年の期限付きで国策会社にして、その間、日本全国津々浦々、各家庭レベルにまで光ファイバを敷きまくる。これを道路工事に代わる公共事業にすれば、日本の通信事情もe-Japan計画も(地方の工事業者も)万事OKになるのではないか、とひそかに考えているのだがいかがだろうか。

Profile

磯和 春美(いそわ はるみ)

毎日新聞社

1963年生まれ、東京都出身。お茶の水女子大大学院修了、理学修士。毎日新聞社に入社、浦和支局、経済部を経て1998年10月から総合メディア事業局サイバー編集部で電気通信、インターネット、IT関連の取材に携わる。毎日イ ンタラクティブのデジタル・トゥデイに執筆するほか、経済誌、専門誌などにIT関連の寄稿を続けている。

メールアドレスはisowa@mainichi.co.jp


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