SAPはデジタル採用プラットフォームのWalkMeを買収した。目的はERPをオンプレミスからクラウドに移行する顧客を支援するためのアプリケーションポートフォリオを拡大するためだ。
この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。
SAPはWalkMeを15億ドルで買収することで合意した。この買収は、SAPの年次カンファレンス「SAP Sapphire」(開催期間2024年6月4〜5日)の2日目に発表された。
イスラエルのテルアビブに本社を置くWalkMeは、従業員による企業アプリケーションの効果的な理解と利用を支援するソフトウェアプラットフォームを提供している。
WalkMeの買収におけるSAPの戦略と、浮かび上がった疑問をアナリストが届ける。
SAPの考えは、オンプレミスシステムからAIなどのテクノロジーをサポートするクラウドシステムへの変革を支援するアプリケーションポートフォリオに「WalkMe」を統合することだ。このポートフォリオには、SAPがビジネスプロセス理解のために2021年に買収したSignavioや、ITアプリケーションアーキテクチャ全体を理解するために2023年に買収したLeanIXが含まれている。
WalkMeのプラットフォームは、アプリケーションレイヤーに設置され、ユーザーがプロセスやタスクを実行する際にうまくいかなくなる可能性のある箇所を特定する。その後、ユーザーがタスクを完了できるよう、ガイダンスや自動化されたプロセスを提供する。
現在、WalkMeはSAPやOracle、Salesforce、Workdayなどの企業が提供するアプリケーションをサポートしている。SAPによると、WalkMeは引き続きSAP以外のアプリケーションをサポートする予定とのことだ。
SAPがWalkMeを買収した理由について、「SAP Signavio」および「SAP LeanIX」のゼネラルマネジャーであるルーヴェン・モラート氏は、「WalkMeは、ユーザーの業務効率化を支援し、変化するIT環境において何がうまくいっていて、何がうまくいっていないかに関するCIO(最高情報責任者)の理解を助ける」と述べた。
「AIに関連するイノベーションをはじめとして、クラウドでは、常に多くの変化が起きている。それらの変化にエンドユーザーが追い付けないとしても、CIOは機能の導入について確認する必要がある。誰もAI機能について知らなかったり誰も使用していなかったりするのであれば、AI機能に多額の費用を費やす必要はない」(モラート氏)
モラート氏によると、SAP SignavioとSAP LeanIXを含むポートフォリオにWalkMeが加わったことは、人材領域のチェンジマネジメントに関するイノベーションだという。
「エンドユーザーの手を取り、何がどのように変わり、それが彼らの仕事にどのように影響するのかを説明しよう。IT部門が何かを導入したりプロセスオーナーがプロセスを変更したりしたからといって、価値が生まれるわけではない。エンドユーザーがアプリケーションやプロセスを使いこなしたときに価値が生まれるのだ」(モラート氏)
また、モラート氏は「現在、WalkMeのビジネスの約80%はSAP以外のアプリケーションに関するものだが、SAPはIT環境全体のビジネス変革に対するプラットフォームアプローチを推進しているため、今後もサポートを継続する」とも述べている。
「CRMに『Salesforce』、財務に『SAP S/4HANA』を導入した上で、クロスアプリケーションプロセスを実現したいのであれば、両方を管理する必要がある。私たちは、SignavioとLeanIXを含むビジネス変革の領域にWalkMeを組み込んでいる。これらはどちらもSAPおよびSAP以外のアプリケーションをまたいで使用されるツールだ」(モラート氏)
コンサルティング企業であるIDCのジーナ・スミス氏(リサーチディレクター)は、次のように述べた。
「これはSAPとWalkMeの双方にとってWin-Winのように思える。SAPにとってWalkMeは、SAPが現在提供しているEnable Nowの機能を拡張する洗練されたプレミアムデジタル採用プラットフォームとなる。WalkMeも、この取引によって影響力を大きく拡大するだろう」
スミス氏は「SignavioとLeanIXの買収にWalkMeの買収を加えた一連の動きは、ビジネス変革における人材やプロセス、ツールの問題に対処するという観点から、SAPにとって理にかなっている」と述べた。WalkMeは、人々がソフトウェアをより早く導入し、使いこなせるようにすることを目的としたプラットフォームであり、この方程式における人材の領域に対応している。
「うまく導入できれば、この3つの組み合わせは非常に強力なものになるだろう」(スミス氏)
調査企業である3Sixty Insightsのマーク・フェファー氏(コントリビューティング・アナリスト兼WorkforceAI Substackの編集者)によると、人事部門はオンボーディングとトレーニングのためにデジタル採用プラットフォームを利用することが増えており、WalkMeもSAPグループの中で、その役割を果たすことができるという。
「多くの新技術が登場している今日において、WalkMeの導入は非常に理にかなっている。企業には従業員に対するトレーニングの課題があり、WalkMeはその解決策になる。企業に対してSAPのプラットフォームが提供する支援の範囲の広さを考えると、WalkMeは人事やトレーニング開発に役立つツールとなるだろう」
エンタープライズ業界の分析企業であるDiginomicaのジョン・リード氏(共同設立者)によると、「この買収は、摩擦を減らし、AIに基づくシームレスで自動化されたユーザーエクスペリエンスを作り出すSAPの取り組みに合致している」という。しかし、同氏は「より多くのAIアシスタントがユーザーのフロントエンドにインストールされる中で、WalkMeが価値を維持できるかどうかは疑問だ」と付け加えた。
「AIはすでにユーザーエクスペリエンスに変革を起こしている。ユーザーが、SAPの『Joule』のようなアシスタントと対話する機会が増えるにつれて、ユーザーによる画面上のナビゲーションを支援する領域において、WalkMeが価値を保てるかどうかは定かではない」(リード氏)
「WalkMeの買収は、SAPが2007年にビジネスインテリジェンス(BI)ベンダーであるBusinessObjectsを買収した時と似ている。その後、BI市場全体に変化が起きるのを確認した」(リード氏)
一方、リード氏は、次のようにも述べた。
「しかし、WalkMeはAIに関連する多くの取り組みをすでに進めており、ユーザーと対話する方法にも取り組んでいる。これに関連して、いくつかのポジティブな要素もあるかもしれない」
WalkMeはSAP以外のエンタープライズアプリケーションのサポートを継続するが、これらの顧客はこの取引を懸念する可能性がある。SAPが現在管理しているWalkMeのデータを巡って、他のエンタープライズベンダーとの法的な衝突につながる可能性があるとリード氏は述べた。
「SAPがアクセスできる情報は膨大だ。おそらく彼らはガードレールを設置するだろうが、それがどうなるか見守るしかない」(リード氏)
SAPのモラト氏は、アーキテクチャを考慮すると顧客は心配する必要はないと述べた。
「システム内の基礎となるトランザクションデータや運用データには触れない。WalkMeはUIレベルのオーバーレイであり、例えばSalesforceには統合されない」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.