生成AIの次なる波として注目される「フィジカルAI」。産業変革の鍵を担うこの技術の現在地とは。「AWS re:Invent 2025」で語られた最新トレンドと、実用化を阻む「4つの壁」に迫る。
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産業ロボットや自動運転車の開発における重要な技術として注目される「フィジカルAI」。現実世界の空間データなどを学習したAIが、カメラやセンサーで現実世界の状態を認識し、物理法則を考慮して機械を制御する技術だ。
この技術を生かして産業の変革を目指す先進企業は、いま何に取り組み、どのような未来を描いているのか。Amazon Web Services(AWS)が米国ラスベガスで開催している年次イベント「AWS re:Invent 2025」の内容から、フィジカルAIのトレンドと展望に迫る。
報道陣向けに開かれたフィジカルAIに関するパネルディスカッションで、AWSのGenerative AI Innovation Centerでディレクターを務めるシュリ・エラプロル氏は、生成AIが現実世界と融合し始めている現状を「次のフロンティア」と表現し、フィジカルAIの重要性を強調した。
建設業界や物流、製造業の現場では、依然として労働力不足が深刻な課題となっている。生成AIはデジタル空間でのタスク処理において大きな進化を遂げたが、現実世界の物体を操作し、複雑な環境に適応するロボットへの応用は、安全性や制御性の観点から高いハードルが存在していたという。
同ディスカッションにはNVIDIAのRobotics and Edge Computing Ecosystemで代表を務めるアミット・ゴエル氏に加えて、同技術を活用するスタートアップ企業の経営陣が登壇し、こうした現実世界におけるフィジカルAIの実用化に向けた現在地と未来が語られた。
ゴエル氏はフィジカルAIには大規模言語モデル(LLM)とは異なる特性があり、それに関連する以下4つの課題があると指摘する。
NVIDIAはこれらの課題に対して、産業用デジタルツイン向けの開発プラットフォーム「NVIDIA Omniverse」やAI処理向けのエッジデバイス「NVIDIA Jetson」などを提供する。
ロボット開発者側もこれらの課題の解決を目指している。同ディスカッションに登壇したTutor Intelligenceのジョシュ・グルエンシュタイン氏(共同創業者兼CEO《最高経営責任者》)によれば、同社はフィジカルAIのデータ不足に対応するため、多数のロボットを実際の工場や倉庫に配備し、データを収集しているという。日々環境が変化する中小規模の現場に積極的にロボットを導入し、変化に柔軟に対応できる能力をAIに獲得させることを目指す。
建設現場における作業車両の自動運転キットを開発するBedrock Roboticsのケビン・ピーターソン氏(共同創業者兼CTO《最高技術責任者》)は、同社がデバイス側に安全性確保のための知識を与えていると明かした。なんらかの理由でネットワークが切断されても、デバイスの周りにいる人間を守れるようにするためだ。
フィジカルAIの進展は、人手不足に悩む製造業や建設業にとって救いとなる可能性がある。Tutor Intelligenceは中堅・中小企業の倉庫や工場に安価でロボットを貸し出し、それまで全く自動化が進んでいなかった現場で大幅な効率化を実現しているという(先述したように、安価で貸し出す代わりに動作時のデータを取得、活用している)。
一方で、一般家庭へのロボットの普及について同ディスカッションのパネリストたちは慎重な姿勢を見せた。家庭は、工場や倉庫と比較して間取りや物の位置が多様なため、ロボットを導入する難易度が高い。安全性やサプライチェーンの確保も課題になる。その上で一般家庭が買える程度の価格に抑えるのは至難の業だ。これらの理由から家庭用ロボットの普及にはまだ数年を要すると見られ、まずは産業用途や病院などの特定環境から導入が進むと思われる。
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