セールスフォースにも決められない? AIエージェント、「いくらが適正価格か」問題が勃発CIO Dive

「AIは期待ほどの導入効果が得られないのではないか」という疑問が解消されないまま、企業はAIエージェントにどれだけ予算をかけるかという新しい難問を突き付けられている。いくらが適正価格なのかを問われる中、セールスフォースが出した「まさかの回答」とは。

» 2025年12月04日 08時00分 公開
[Lindsey WilkinsonCIO Dive]

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 AIエージェントには導入してすぐに使えるわけではないという“特徴”がある。こうした製品の投資対効果をどう考えるべきだろうか。技術の進化が早く、企業がついてこれない今、AIエージェントを提供するITベンダーは顧客が納得する価格を果たして提示できるのか。

 Salesforceのマーク・ベニオフCEOは、2025年10月21日(現地時間、以下同)に開催されたGartnerのカンファレンス「Gartner IT Symposium/Xpo 2025」で「AIエージェントが、ベンダーと企業の関係性を変えつつある」と強調した。

 このカンファレンスで多くのAIプロバイダーは企業顧客に対して、最新のAIエージェントツールやプラットフォームへの投資を早く進めるよう強く促した。こうした状況に対し、ベニオフCEOは「企業がAIからどのようにリターンを得られるかについて、ITベンダーは未だに明確な回答を持っていない」と述べた。

 この発言の真意はどこにあるのか。また、Salesforceが顧客企業にAIエージェントを提供するに当たって、価格設定において取った「まさかの選択肢」とは。

「導入してすぐには使えない」AIエージェント、妥当な価格は?

 調査企業であるGartnerが2025年10月21日(現地時間、以下同)から開催した「Gartner IT Symposium/Xpo 2025」の2日目の基調講演で、ベニオフ氏は次のように述べた。

 「仮にITベンダーが『(企業がAIからどのようにリターンを得るかについて)完全な回答を持っている』と考えているならば、それは誤りだろう。同様に、『企業向けのAIエージェントが台頭する市場において、どのように振る舞うべきかを完全に理解している』と考えるならば、それも誤りだ」

 企業がAIエージェントの導入によって適切な投資対効果を得ようとする場合、セキュリティやガバナンスの不備、チェンジマネジメントの難しさなど、幾つもの障害に直面する(注1)。Gartnerが2025年9月に公開した調査によると、「AIによって生じる不正確さに対して、ベンダーが十分な防御策を提供できる」と信じているのは(注2)、ITアプリケーション部門のリーダーの約20%にとどまった。

 Gartnerによると、企業はAIエージェントへの投資について、納得できるビジネスケースを構築することに苦戦している。実際にエージェントを試すための予算をどのように割り当てるかにも苦労しているようだ。

 Gartnerのイヴォンヌ・ジェノヴェーゼ氏(ビジネスおよびテクノロジー、インサイト担当エグゼクティブ・バイスプレジデント)は、ゲストとして登壇した基調講演において次のように語った。

 「企業の悩みの一つは、ITベンダーが話題の中心としているAIに関する費用負担をどのように理解すべきかが分からないというものだ。企業の言葉を借りれば、『生産性の向上だけではAIに関するコストを賄いきれない』のだ」

「価格を一方的に提示できる状況にない」

 Salesforceは2025年10月中旬に開催した自社の年次イベント「Dreamforce」で、最新のAIエージェント「Agentforce 360」を発表した(注3)。この統合型プラットフォームは、過去1年間にリリースされたAI関連ツールやエージェント型サービスを、企業がより簡単に活用できるように設計されたものだ。

 しかし、ジェノヴェーゼ氏が指摘するように、Agentforce 360は導入すればすぐ使えるタイプの製品ではない。企業はAgentforce 360を利用するために利用権を購入し、技術を導入し、従業員をトレーニングし、新しいAI時代に特有のさまざまな問題点に対処する必要がある。

 「これは市販の製品のように、購入後直ちに使える製品ではない。AIエージェントを手に入れたからと言って、データに向かって『さあ、活躍してこい』と指示すれば済む話ではないのだ」(ジェノヴェーゼ氏)

 多くの企業はAIエージェントの本格導入について、慎重な姿勢を崩していない(注4)。

 ベニオフ氏は次のように述べた。「われわれは未だに答えを持っていない。現在は物事の移り変わりが激しく、刺激的な時代だ。今のところ、テクノロジーと革新のスピードは、顧客が技術を採用するスピードをはるかに上回っている。顧客がわれわれに追い付けるはずはない」

 ベニオフ氏は、Salesforceが企業ユーザーとの関わりを深めるために取り組んできたものとして「柔軟な価格設定オプション」を挙げた(注5)。また同氏は「Williams-SonomaやPepsiCoといった顧客の成功事例を、方向性を示す重要な指標として位置付けている」とも述べた(注6)(注7)。

 「われわれは価格を一方的に決めて提示できる状況にない。現在はむしろ価格について、顧客に最大限の柔軟性を持ってもらう必要のある時期だ。実際、Dreamforceの基調講演に登壇した顧客企業それぞれに対して、われわれは個別にカスタム契約を作成した」(ベニオフ氏)

 ベニオフ氏によると、ベンダーと企業ユーザーが密接に連携して取り組む関係性も、成功を後押しする重要な要素だという。

 「極めて強固なパートナーシップが必要になる。われわれ一人一人に役割があり、互いに力を合わせなければならない」(ベニオフ氏)

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