まだまだ奥深い集合住宅のラストワンマイル 技術だけでは解決できない深い問題IT Business フロントライン (56)

» 2001年10月10日 12時00分 公開
[三浦優子(コンピュータ・ニュース社),@IT]

 大変なことが起こっている。前回書いた原稿とまったく逆の状況になってしまっているのだ。

 前回、NTTのサービス申し込み窓口116番に電話し、Bフレッツの申し込みを行ったところ、「お客さま、集合住宅にお住まいですね? まことに申し訳ございませんが、現在のところ集合住宅にお住まいのお客さまはマンションタイプのみの申し込みを受け付けております。管理人さまからの申し込みでないと、マンションタイプは受け付けできません」といわれあえなく撃沈した──はずだったのだが、念のため、インターネットからの申し込みページを見たら、まったく逆のことが書いてある。「マンションタイプは現在受け付けておりません」となっているのだ。

 なんだかキツネにつままれたような気持ちになりながら、そのWebページから申し込みを行うと、折り返しNTT東日本から電話がきて、「お客さまのお住まいは光線収容の建物ですので、サービスを受けることができます」という。ということで、いまBフレッツ導入のための下見の日を待っているところである。電話とインターネット、それぞれの申し込み窓口で逆のこという。どうも、NTT東日本は、整合性が取れていない……。

 ところで、前回の記事に対して、いろいろなご意見をいただいた。つくづく、私の文章のつたなさ……で、書き手の意図と逆に受け取られてしまったり、うまく伝わっていなかったり、私自身の考えが至らなかったりと、さまざまなことを考えさせられた。集合住宅における通信回線の問題は、本当に奥が深いと痛感した次第である。

 よく、「ラストワンマイル」という言葉が使われる。最後の1マイルに回線を敷設するのが難しいという意味で使われる言葉だが、さまざまなご意見のメールを読んで、業界動向的には高速インターネットに向けて各種サービスが登場しているというのに、最後の最後、まさにラストワンマイルにさまざまな障壁があることが分かった。そこで、ラストワンマイルという言葉を、「各利用者の目前の問題」ととらえて、あらためて集合住宅がブロードバンド化していくために、どんなラストワンマイルがあるのか、書いてみたい。

文字通り住宅内の回線が阻むラストワンマイル

 まず、ADSLが利用できないという件に関し、「自分も一度は駄目ということになったが、再度、申し込みをしたらサービスが受けられた。再度申し込みをすれば、サービスは受けられるのではないか」というご意見があった。実は私も、そういう話を聞いて何回かサービスに申し込んだのだが、ことごとく断られている。これは、平成9年に建った私の住居は、銅線が完全に撤去されているからだそうだ(伝聞調になっているのは、それをわが目で確かめたことがないから)。

 おそらく、再度申し込みをして、サービスが利用できるようになった方は、自宅に銅線が残っていたのではないか。どうやら、NTT側の回線でも一度は光ファイバだけにしたものの、最近のDSL需要で再び銅線を敷きなおしたケースや、住宅でも光ファイバ化する際に銅線を残してあったのが最初は分からなかったり、幾棟かある集合住宅で光回線と銅線が混在しているケースもまれにあるようで、そういう場合には時期を置いて申し込むと逆転して、ADSLサービスを利用できることがあるらしい。

 郵政省(現総務省郵政事業庁)では2000年7月、「DSLサービスの普及促進に向けた今後の取り組みについて」という発表を行い、その中でNTT東西地域会社に関する要請として、「銅線撤去情報の開示」を徹底し、「4年前から、情報を公開すること」と謳っている。現状としては、少なくともNTT側の回線(電話局から電柱まで)に関しては、「自分の地域の回線環境はどんな状況にあるのか」を把握しやすい状況になっていると言えるだろう。

 だが、私のように、住宅までの引き込み線や屋内配線までが光ファイバだけになっている場合、ADSLは利用できない。もちろん、住居内が完全に光ファイバ化されているケースはそう多くないようである(ISPの話によれば、1割程度だとか)。自宅の回線がどうなっているのかを正確に把握するには、住居の管理事務所に行って、図面を見せてもらうしかないともいう。

 これでは、利用者が自分の回線状況を把握しにくいことには変わりがない。現状では、現在の私の住居のように光回線化されてしまっている場合でも、インターネットのNTT東日本やプロバイダのページでは提供エリア内であるため、「DSLサービスが利用できます」と説明される。そこで喜んで申し込むと、後から「駄目でした」というのはむごいというものだ。

 今後、e-Japanなどの後押しもあり、光回線化がいっそう進むだろうが、そうなれば逆に住居内の回線が銅線で、FTTHサービスを利用できないケースが出てくるだろう。特に集合住宅の場合、簡単に銅線を光ファイバに切り替えることは難しいため、私と逆に、「FTTHサービス提供地域なのに、なぜか利用できない」という不愉快な思いをする人が増大するはずだ。

 なんとかして、自分の電話番号を入力したら、受けられるサービスだけが「利用できます」と正確に表示される仕組みができないものだろうか。せめて、申し込み段階でサービス利用の可否が分かるようになってほしい。

距離が邪魔するラストワンマイル

 また、電話局からの距離が遠いという理由で、「サービスの質が保証できない」とADSLの敷設を断られたという方からのメールもいただいた。距離が問題というくらいだから、正確には「ラストワンマイル」とはいえないものの、サービスの利用ができないという視点で見れば、ラストワンマイルがクリアされていない1つのケースといえるのではないだろうか。

 距離による通信品質の劣化は、米国でDSLサービス提供企業が相次いで倒産した理由とされており、DSL技術の最大の弱点である。日本では「都市部は住宅が密集しているので、この問題は起こりにくい」とされているのだが、現実にはやはり問題は起こっているのだ。今後、都市部よりも住宅が密集していない地方にサービスが広がっていくことを考えると、やはりDSLだけでは技術的な限界があることを感じる。こうした利用者に対しても、きちんとした代替案を提示していくことが、今後ますます必要になっていくように思う。

 たとえ、99%の人がサービスを受けられる環境だとしても、1%でもサービスを利用できない人がいることを、NTTをはじめとする通信事業者には忘れないでいてもらいたい。いま、ブロードバンドサービスは、行け行けドンドン状態で、「加入者がうなぎ上りに増えている」という威勢のよい話ばかりが聞こえてくるのだが、サービスの本質は利用者の数の増大だけではないというのをときどき振り返って確認する必要が、通信事業者にはあると思う。

住民の意識というラストワンマイル

 さて、前回書いた記事に対する反響の中で、最も考えさせられたのが、「集合住宅が総意として、通信回線を導入することに成功した」ことを伝えるメールであった。

 前回、私の会社の編集部デスクのマンションでデータ通信に関するアンケートを採ったものの、約100戸中、回答は2戸しかなかったという話を紹介した。しかし、私の住む住居では、そうしたアンケートすら採られたこともない。アンケートを採ったというだけ、弊社デスクのマンション管理組合は立派である。

 ところが、読者の方からは、「同様のアンケートを実施し、440世帯中、310世帯が回答し、310世帯のパソコン普及率は89%で、NTT東日本の先行開通事例となるマンションになった」というケースや、マンション内の光ファイバ化を実現するために、マンション内にメーリングリストを作ろうと頑張っていらっしゃる方など……集合住宅のブロードバンド化実現のために、前向きに頑張り、成功している方がたくさんおられるのである。

 同じ集合住宅でも、ブロードバンド化に前向きな住民が住む世帯と、そうでない世帯があるのはなぜなのか。いただいたメールの中には、「そこまで踏み込んだ記事を」というご指摘もあったのだが、私はここではたと考え込んでしまった。住民の意識の差を探るというのは、はっきりいってこれまでのIT系の媒体ではあまり取材領域になってこなかった部分である。しかし、集合住宅のブロードバンド化を考えるうえでは、これは欠かせない問題だ。IT系媒体も記事の中身を変える必要があるということか……。

 前回、集合住宅のブロードバンド化に対して、e-Japan構想でもっと積極的に考えて……なんて安易に書いたけれども、住民の意識を統一するというのは、そんなたやすいものではない。まったく異なる生活環境を持つ住民が住む集合住宅で意見を合わせていくためには、単に情報環境のブロードバンド化という問題だけにとどまらず、普段からの住民同士のコミュニケーションも必要だろうし、集合住宅の自治という問題も絡んでくる。

 しかも、同じ集合住宅でも、賃貸と分譲ではおのずとルールも住民の意識も違ってくるだろう。おそらく集合住宅ごとに、まったく異なる問題というものが出てくるはずなのだ。「住民の意識」も、ラストワンマイルの1つととらえれば、このラストワンマイルこそ、最もデリケートで、個々固有の問題を抱えているはずである。

 この問題がどう解決されるべきなのか、これまでにない課題がIT業界には残されているように思う。外資系企業が得意なマーケティング理論が通じない問題点だけに、一朝一夕には解決できないテーマだが、ブロードバンド化の進展がIT業界にとって大きなビジネスチャンスであることを考えれば、業界としても少しずつ、解決の糸口を探していかなければならないだろう。

Profile

三浦 優子(みうら ゆうこ)

株式会社コンピュータ・ニュース社

1965年、東京都下町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。

メールアドレスはmiura@bcn.co.jp


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