FOMAの実力・サービス2カ月間の実感は?動画配信サービス「iモーション」を評価すると……IT Business フロントライン (61)

» 2001年11月23日 12時00分 公開
[磯和春美(毎日新聞社),@IT]

 NTTドコモが、第3世代携帯電話「FOMA」のサービスを正式にスタートしてから約2カ月。スタート当初の販売状況からは、ユーザーからの熱烈歓迎といったムードは感じられなかったが、対応機種もラインナップが増え始め、サービスエリアも12月から拡大が決まった。さらに動画配信サービスや映像配信技術開発を行う企業も次々に出てきて、一応順調な滑り出しといえるようだ。

料金がネックで多くの人は様子見

 しかしながら、いまの時点で実際にFOMAを見たことがある人、使ったことがある人はどれくらいいるだろうか。NTTドコモや販売店の1つであるビックカメラなどによると、購入者・利用者層は「試験サービスの利用者や通信機器のヘビーユーザーが中心」だという。

 一般のユーザーがFOMAに興味をもっていないわけではない。しかし、“新しモノ好き”以外の人々が気にしているのは、どうやら料金のようだ。筆者が参加しているモバイル系のメーリングリストでFOMAの話を振ると、必ず返ってくる反応の1つが「高すぎて一般のユーザーには使うメリットがない」というもの。

 まあ、それはもっともだ。いくら「高速データ通信が目玉だ」といっても、その速度は回線交換方式ならISDN並みの上り下り64kbps。もう一方の注目である下り最大384kbps、上り最大64kbpsのパケット通信は確かに速いが、それでもADSLなどがものすごいペースで普及している現在、「モバイルである」ということ以外に「体感的に速度に感動する」というほどのスピード感はない。

 ところが料金のほうは、通話のことを考えないとして最低月額基本料金が2200円で、データ通信はデータ量に応じた従量料金制。一部定額プランや割引プランなどもあるが、実際のデータのやりとりを考えてみると、例えば月額8000円のパケット通信料金を支払うメニュー「パケットパック80」(パケット当たりの料金は0.02円)を選択している人が、CD1枚分(約60分)のデータをダウンロードしようとすると、約3分の曲を3Mbytesとして、20曲で600Mbytesと、もうそれだけで追加料金が必要になる。これに楽曲の利用料金(著作権料)を支払うとなると、「どうもCDを買ったほうが安いぞ」と通信素人でも見当がつくはずだ。

 もちろん、自分の好きな曲を外を歩き回っているときや待ち合わせなどで手持ち無沙汰のとき、素早くダウンロードできるというのがFOMAのようなモバイル通信機器の最大の売りであるわけだ。しかし、そこまでして「機会の損失」を恐れる利用者は、まだそれほど多くないのが実情だろう。結局「もう少し料金がこなれてから」と情勢眺めを決め込むユーザーが多いのが現実だといえそうだ。

動画クリップ配信サービス「iモーション」の感想

 また、19日から始まったiモーションは、FOMAによるインターネット接続サービス「iモード」の付加サービス。短い動画・音声のクリップを配信するもので、スタートからは28社(37サイト)のコンテンツ提供者が、ニュースやスポーツのハイライトシーン、映画の予告編などの提供を開始した。

 しかし、このiモーションを利用するには、同日に発売されたNEC製のビジュアルタイプの新端末N2002が必要だ。実売価格は4万円前後。

 さらに、iモーションもパケット受信料が必要で、1コンテンツのサイズは上限が100Kbytesに抑えられているが、先の「パケットパック80」を利用しても、1コンテンツをダウンロードするのに16円から17円のコストがかかる。これで、1コンテンツあたり10秒前後。N2002には7つまでコンテンツを連続して再生する機能がついているが、エンターテイメント系のコンテンツを楽しむには短すぎ、なにより面倒だ。さりとて、長いものを見るには料金も気になる。

 それに、正直いって画質はあまりよくない。実際にiモーションをN2002で利用してみたが、完全な一利用者としての感想は、「ISDN時代の動画をほうふつとさせるなぁ」というものだ。ADSLなどの普及が進み始め、自宅のパソコンでも美しく滑らかな動画をみた経験をもつ人が増えている現状では、現段階のiモーションを“紙芝居レベル”と感じる人も多いのではないだろうか。あるいは、ブロードバンドの普及が、FOMAの能力や魅力を低く評価させている──といったら、うがちすぎだろうか。

ドコモに英断を望む

 とはいえ、FOMAに期待していないわけではない。すべてにおいて「あと一歩」という印象を受けるのが歯がゆく感じられるほど、FOMA自体はよくできている。もう少し利用エリアが広くなり、もう少し動画の種類とバリエーションが増え、動画時間が長くなり、もう少し画質が向上すれば、モバイル機器としては上等といえよう。それらは、今後の技術革新やコンテンツ提供側の工夫によって、可能になってくるだろう。

 ただ、すべてのサービスのネックになるだろうと感じられるのが料金体系。iモード利用に慣れ、ADSLに慣れてきたユーザーに向けて、FOMAの料金設定は現状でライバル不在とはいえ、やはり高すぎる印象を与えてしまう。利用者や事業者の間に「モバイルでの映像はムリ」というような評価が定着する前に、ドコモの英断を望みたいところだ。

Profile

磯和 春美(いそわ はるみ)

毎日新聞社

1963年生まれ、東京都出身。お茶の水女子大大学院修了、理学修士。毎日新聞社に入社、浦和支局、経済部を経て1998年10月から総合メディア事業局サイバー編集部で電気通信、インターネット、IT関連の取材に携わる。毎日イ ンタラクティブのデジタル・トゥデイに執筆するほか、経済誌、専門誌などにIT関連の寄稿を続けている。

メールアドレスはisowa@mainichi.co.jp


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