パソコン専門店に迫る存亡の危機eコマース成功ジャンルの陰でIT Business フロントライン(48)

» 2001年08月24日 12時00分 公開
[三浦優子(コンピュータ・ニュース社),@IT]

 皆さん、パソコンおよび周辺機器、ソフトウェアなどパソコン関連製品はどこでお買い求めになりますか?

パソコンはパソコン店に行かずに買う

 何年か前なら、「パソコン専門店」という答えが上位にきただろうが、最近はヨドバシカメラ、ビックピーカンといったカメラ量販店系、コジマやヤマダ電機のような郊外型家電店を利用する人が増えているのではないだろうか。専門店に操を立てて、カメラ量販店、郊外型家電店を利用しない人は、アットマーク・アイティの読者の方でもごく一部に限られているように思う。

 いま、カメラ量販店、郊外型家電店に押され、パソコン専門店は非常に厳しい局面にある。しかも、最近販売店関係者からよく聞くのが、「店に来ないでも、Webで買えるからねえ……。店に来るお客さんはよっぽど物好きだよ」という声である。専門店を利用する人でも、実際に店舗には出向かずWebで済ませるケースが増大しているのだという。

 お店に出向く人でも、かつてのマニアユーザーは秋葉原(大阪なら日本橋、名古屋なら大須)の電気街に出向き、数軒の店を冷やかしつつ、欲しい商品を探し出し購入する……、というのが王道パターンだったわけだが、「お店に来る場合でも、Webの価格比較サイトであらかじめどの店の価格がどれくらいかを調べてくるのが当たり前。以前のように、自分の足で探す人は少ない」とやはりWebの影響で、客足は減少傾向にある。

Mac専門店の怒りと嘆き

 さらに、追い打ちをかけているのが、メーカー自身が専門店を重視しない傾向にあることだろう。

 その傾向が最も顕著なのがアップルだ。8月18日から、アップルは自社の直営サイトApple Storeで、他社製品の取り扱いを開始した。

 これまでもMacユーザーは指名買いが多いだけに、「商品が潤沢で、価格も決して高くないApple Storeは、専門店にとって最大の強敵」だったが、他社製品の取り扱いが始まれば、「本体セットはApple Storeで購入しても、周辺機器などの商品はほかの店舗で」という流れさえなくなってしまう。ただでさえWebに脅かされている専門店にとって、このアップルの直販サイトがさらに大きな脅威となる。

 あるMac専門店の幹部は、「専門店といいながら、いま、扱える商品が最も少ないのがMac専門店」だと自嘲的に話す。iMacは量販店での販売をメインに据えた商品であるため専門店には潤沢に入荷しないというのに、逆に専門店での販売を中心に考えられたはずの上位機種は郊外型家電店、カメラ量販店でたくさん売られている事実が、「俺たちはなんのためにMac専門店をやっているんだ!」という憤りを誘っていた。

 そこに追い打ちをかけるように、アップルの直販サイトに並ぶ商品が徐々に充実していく。「正直なところ、Mac販売に関してはなすすべがない」という絶望的な気持ちになるのも無理はない。

パソコン専門店はなくなるのか?

 米国ではWebだけでなく、アップル自身が専門店の運営を開始し、いくつかのパソコン販売店が店じまいをした。日本では実店舗を作る計画はないというものの、同じように専門店が非常に厳しい状況であることは紛れもない事実である。Macintoshがメジャーになるにつれ、古くからの専門店の多くが方向転換、店じまいをしてきたが、今後はさらに拍車がかかるのではないかと気掛かりである。

 もちろん、Mac以外の専門店も、かなり厳しい状況にある。どのメーカーも自社直販サイトを持っている上、既存販売チャネルでも商品の取り扱い量が少ない専門店よりも、量が多いカメラ量販、郊外型家電店を優遇する傾向にあるからだ。パソコン専門店は特殊な技能を持っているところを除き、減少していくことになるのではないか。

 前々回、秋葉原の街に巨大アダルトショップができるなど、大きな変貌に見舞われていると書いたが、こうした変貌はパソコンを捨て、元気な商材を扱おうとする必然的な動きといえるのかもしれないとさえ思えてくる。

 専門店がなくなっていくことは、時代のすう勢としてしようがないことなのだろうか。それともユーザーにとって大きな不利益になることなのだろうか。この点によーく注目していきたい。

Profile

三浦 優子(みうら ゆうこ)

コンピュータ・ニュース社

1965年、東京都町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。

メールアドレスはmiura@bcn.co.jp


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