Windows XPの重い足かせ──メーカー戦略と販売現場の間でIT Business フロントライン(39)

» 2001年06月15日 12時00分 公開
[三浦優子(コンピュータ・ニュース社),@IT]

 主要パソコンメーカーからブロードバンドを切り口にした新しいパソコンが発売され、ソフトでも久々の大型商品「Office XP」が6月9日に発売になったというものの、相変わらずパソコン販売店は苦戦を強いられているようだ。

厳しい販売店の見方

 先日、あるパーティで、大手販売店の偉い方々にお目にかかったのだが、「いやあ、厳しいねえ……」という声が圧倒的に多かった。どうも明るい材料が見いだせないらしい。

 しかし、米国でWindows XPの発売日が10月25日に決定したことで、日本でも冬商戦前にもWindows XPが発売される可能性が高くなり、冬には大幅な売り上げ増が見込まれている!……と思っていたのだが、「いやあ、そんなにみんな買い替えをしてくれるとは思っていないよ」と販売店の皆さんは、非常に冷静なのだ。間違いなくWindows XPは今年最大の商品である。にもかかわらず、つれない(?)その態度……。

 こうした状況をどう考えているのか、マイクロソフト・阿多親市社長を直撃してみた。

余裕のマイクロソフト

──Windows XPに関して、もっと煽ってもいいんじゃないですか?

 「夏商戦が始まっている段階で、Windows XPの宣伝を大々的に始めれば、夏商戦に登場した商品の買い控えにつながりかねません。夏商戦を邪魔するようなことはしません」

──しかし、あんまりマイクロソフトさんが静かすぎるので、販売店さんはWindows XPに対し疑心暗鬼になっているようにも見受けられますが?

 「その点はあまり心配していません。発売前になれば、きちんと販促活動は行っていきますから」

──なるほど、発売前にはアクセルをふかして宣伝活動にも力を入れていくということですね。ところで、販売店側がWindows XPは本当に売れるのかを疑問視している最大の要因は、去年、Windows Meが思ったほど盛り上がりを見せなかったためだという声も耳にしますが。

 「Meに関してはこちらがそういうプロモーションをしたからそうなっているんです。その点はそんなに心配していません」

 と、いうわけで、いまのところ、販売店がWindows XPの売れ行きを疑問視していても、発売前には大々的なプロモーションをかけるので心配はいらないと阿多社長は話している。確かに、マイクロソフトがお金をかけて販促を始めれば、販売店はすぐにWindows XP一色になるだろう。

Meが投げかける“暗い影”

 だが、やはり疑問を抱かざるを得ないのが、Windows Meの存在である。周知のとおり、Windows MeはDOS、Win 3.1/95からの流れを継承した最後のWindowsであり、Windows NT/2000系が主力とされた後に投入された過渡的な商品であった。本流ではないこの製品は、Windows 95以来恒例となっていた深夜の発売開始によるプロモーションも行われなかった。

 そのためか、売れ行きも「95」のように爆発的に伸びたというわけではない。これはマイクロソフトの狙いどおりではあったのだろうが、「売れ行きが伸び悩んだ」という事実がWindows XPに暗い影を投げかけているように感じられてならないのだ。

 ある周辺機器メーカーの社長は、「Windows Meは発売しないほうがよかったのではないか」とさえいう。「Windows 2000とMeという2つのプロモーションを同時に行うことで、ユーザーにもIHV(ハードウェア販売会社)にも混乱が起きる。Meは飛ばして、XPに行ってくれたほうが混乱がなかった」というのだ。

「狙いどおり」は、正解だったのか?

 確かに、販売店を取材していて、「Windows Meが成功しなかったのだから、マイクロソフト神話にも陰りが見えた」と話す人が多いので、いっそのことWindows MeはなかったほうがWindows XPにはプラスだったのではないかと思うことが少なくない。

 ご存じのとおり、マイクロソフトのマーケティングのうまさには定評がある。だが、現在のWindows XPに対する業界関係者の疑問符を見るにつけ、Windows Meという製品はマーケティング戦略どおりの結果を示しているにしろ、その戦略がWindows XPの先行きに影を落としている──マイクロソフトが自分の作ったマーケティング施策の穴にはまりこんだように見えてしかたないのだが。

Profile

三浦 優子(みうら ゆうこ)

コンピュータ・ニュース社

1965年、東京都町田市出身。日本大学芸術学部映画学科卒業後、2年間同校に勤務するなど、まったくコンピュータとは縁のない生活を送っていたが、1990年週刊のコンピュータ業界向け新聞「BUSINESSコンピュータニュース」を発行する株式会社コンピュータ・ニュース社に入社。以来、10年以上、記者としてコンピュータ業界の取材活動を続けている。

メールアドレスはmiura@bcn.co.jp


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