Linux専用メインフレームに注力するIBMの思惑:Weekly Memo(2/2 ページ)
IBMがLinux専用メインフレームの新製品「IBM LinuxONE」を投入した。かつてはLinuxのようなオープン環境と対極にあったメインフレームの変貌ぶりを象徴する動きだ。果たしてIBMの思惑とは――。
迫られるメインフレームのビジネスモデル転換
1つ目のLinux Your Wayとは、「お望み通りのLinuxを」という意味である。具体的には、表にあるようなLinux上で動くオープンソースを中心としたソフトウェア群を自由に選択できる。また、最新のOSSを提供するため、「IBMは各種オープンソースコミュニティに積極的に参画している」(朝海氏)という。
さらに同氏は、「実際の利用環境では複数のOSSを連携させるケースが多いが、そうした際に発生する作業をIBM側で請け負うサービスも提供する」と、ハード、ソフト、サービスをオールインワンで提供する体制も整えていることを強調した。
2つ目のLinux without Limitsとは、「スケーラブルに利用できるLinuxを」という意味である。スケールアウトにもスケールアップにも対応しており、前者では先述したように最大8000台の仮想サーバを集約、後者では同時に数万ユーザーがアクセス可能だという。
3つ目のLinux without Riskとは、「リスクがないLinuxを」という意味である。朝海氏によると、「統合されたセキュリティや事業継続機能により、ダウンタイムゼロを実現することができる」としている。
さらにもう1つ、LinuxONEの特徴として挙げられるのは、月額の利用料金体系を用意していることだ。最小構成で月額98万円から。同社ではLinuxONEを「クラウドサーバ」とも位置付けている。
これまでLinuxONEの「Linux専用ぶり」を紹介してきたが、朝海氏によると、実はIBMのメインフレームは15年前からLinuxに対応し、現在ではメインフレームユーザーのうち3分の1以上がLinuxを利用しているという。ただ、これまでの製品はメインフレーム専用OS「z/OS」(以前のOS/390)が必須だったりLinuxと共存する形で、同氏の冒頭の発言にあるように、基幹業務でLinuxが適用されるケースは数少なかった。
その意味では、今回投入されたLinuxONEはLinuxをはじめとしたOSSを基幹業務でも活用できる専用機ということで、メインフレームの歴史に新たなページを刻むものとなりそうだ。
ただ、Linux専用メインフレームが市場に広く受け入れられるかどうかは未知数だ。すでに各種出揃っているLinuxサーバと価格性能比においてどれだけの競争力があるのか。少なくとも、かつてのような6〜7割ともいわれた高い利益率のメインフレーム事業が成り立つことは、もはやないだろう。
グローバルにおいて直近まで13四半期連続で減収と厳しい状況に立たされているIBMにとっても、メインフレーム事業の再活性化は大命題の1つだ。今回のLinuxONEによる事業転換に、その強い危機感が見て取れる。そうした中で、LinuxONEをヒット商品に仕立て上げることができるかどうか。IBMの業績への影響もさることながら、業界全体に及ぼす波紋も小さくないとみられるだけに、今後の動向に注目しておきたい。
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