外に出れば「情シス不要論」なんか怖くなくなる ホンダ女子情シスの挑戦(後編):情シス“ニュータイプ“の時代(1/2 ページ)
前例がないクラウド導入、自力の情報収集はもう限界――。そう思って社外のコミュニティーに飛び込んだ、ホンダの女子情シス、多田歩美さん。最初は怖くて逃げ帰ったこともあったが、回を重ねるうちに大きな変化が……。
連載:情シス“ニュータイプ“の時代
「情シス」と聞くと、「上から降ってきた“むちゃ振り”を粛々とこなす人」「安定した社内環境を維持するための縁の下の力持ち」といった、受け身で地味なイメージがついて回ります。しかし、本来、ITで会社を支える情報システム部門はスーパースター的な存在であり、米トップ企業の情報システム部門は「攻める」「改革する」という旗印のもと活躍しています。
日本にもっと、“攻める情シス”を――。そんな思いから生まれたのが、新たなアプローチで企業を変えようとしている「情シス“ニュータイプ“」に話を聞く本連載です。攻めに転じたきっかけ、それにまつわる失敗、成功につなげるための取り組み、業務現場との接点の持ち方などのストーリーが情シスの方々の参考になれば幸いです。
ロボットの研究開発をしたくて本田技研工業(以下、ホンダ)に入社したのに、配属されたのは社内の情報システム部門だった――。
本記事の前編では、そんなホンダの情シス、多田歩美さんが情シス部門で見いだした自分の役割と、そこに至るまでの道のりを紹介した。
後編では、多田さんが社内のクラウド導入の旗振り役になった経緯と、2年ほど前に初めて足を踏み入れ、今では自身が仕事をする上で欠かせない場となった社外コミュニティーの活動について聞く。
前例がないクラウド導入、必死で勉強しながら推進
多田さんが担当していたCAEシステムの一部でクラウドサーバの活用を始めたのは、2012年。多田さん自身がクラウドに漠然とした興味を抱き始めた時期に、ちょうどユーザー部門のニーズが出てきたことからトライアルが始まった。
当時、部門内にはクラウドに詳しい人がおらず、シミュレーションシステムのためにクラウドを使いたいという話をしても、リアルに受け止められなかった。それでも、“チャレンジを歓迎するホンダの社風”もあって導入を進めることになり、旗振り役の多田さんは、本当にクラウドが使えるのかどうかを見極めるための情報収集を開始した。
「会社からは、『外のサーバを使って大丈夫なのか』と聞かれました。ユーザーが使うシステムの安全性を担保するのは私の役目なので、技術的にきちんとカバーできるかどうかを見極め、それを説明する必要がありました」
最初のトライアルでは、扱うデータが機密性の高いものかどうかをユーザー部門と話し合い、最終的には「万が一、それが漏れたとしても問題にはならない」と判断したところから導入を進めた。まずは理解を得られる領域からスタートし、成功モデルをつくって社内に広げていこうという作戦だ。
最初のケースは、運良くクラウドに上手くはまる計算内容でうまくいき、それ以来、他のシミュレーションでもクラウドを使ってみたいとう話が多田さんの元に集まるようになった。しかし、案件によっては計算時に速度が出ないなど期待通りにいかないこともあり、必死に勉強しながら試行錯誤する日々が続いた。
「最初の頃はオンプレミスの思想に染まっていて、『導入前に、仕様をきっちり決め込まなければならない』と思い込んでいたんです。クラウドを使い始めてみると、やはり、上手くまとまらない状況が出てきて……。『どうしよう……』と悩んでいたら、ベンダーさんに『そんなの簡単に変えられますよ』といわれて、『そうなんですか!?』と。『いやいや、それがクラウドですから』とあきれられました(笑)」
自力の情報収集は限界、社外に飛び出してみると
クラウドに関する情報を、書籍やインターネット、ベンダーから得ていた多田さんだったが、膨大な情報の中から本当に使える情報を探し出すには、今のやり方では限界があると思い始めた。そこで目を向けたのが、社外のユーザーコミュニティー。思い切って、AWSのユーザーグループ、「JAWS-UG」が開催する「JAWS DAYS 2013」に飛び込んでみた。
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