社内システムは“作って終わり”ではない 楽天・荒川さん:情シスの横顔
10年以上も前から楽天の経理関連システムを支え続けてきた荒川鏡子さんは、多くの社員が使うシステムだからこそユーザー視点が何よりも重要だと話す。
企業のIT部門で活躍する方々を追ったインタービュー連載「情シスの横顔」のバックナンバー
日本におけるインターネットベンチャー企業の先駆け的な存在として、1997年に創業した楽天。その後、ITバブルの到来によって次々とネットベンチャーが生まれ、さらにはITバブルの崩壊で多くの企業が消え去った中、同社は業界のトップ集団を常に走り続けてきた。
先ごろ発表した2014年1月〜6月期の連結決算では、過去最高となる2766億円の売上高で、前年同期比で14.8%増となった。今や社員数はグループ全体で1万人を超える巨大企業に成長した。
2002年に情報システム担当の派遣社員として入社した荒川鏡子さんは、2005年に正社員となり、現在はコーポレート情報技術部 エンタープライズアプリケーション課に所属する。
入社して担当したのは、ECサイト「楽天市場」の店舗に対する請求書発行システムの運用である。翌年には開発部門の中に経理システムプロデュース部という組織ができたことで、より経理領域に特化した形で仕事をすることとなった。2004年にはこのシステムをカスタマイズしてクライアントサーバ(クラサバ)型に作り変えるプロジェクトに一から携わった。さらに2005年には、請求書の発行だけではなく会計システムとの連携によって機能拡張を図った。
また、2006年は社員の立て替え金と支払い申請のシステムを立ち上げるとともに、2010年から2011年にかけて支払い申請システムにワークフロー機能を加えて再構築した。直近の2012年にはSAPの会計システムをグローバル対応するためのプロジェクトにかかわった。
このように、楽天の経理/会計システムに深くかかわってきた荒川さんだが、この十数年で同社の経理関連業務はどのように変わったのだろうか。「入社当時は社員がまだ数百人だったので、例えば、請求書は月に1万枚程度でしたが、今では数百万枚の規模です。社員の支払い申請システムも以前は月間数十枚だったのが、数千枚に増大しています」と荒川さんは話す。
そして現在注力しているのが、社内決裁や稟議承認などを行うワークフローシステムのリプレースに向けたプロジェクトである。システム刷新の理由は、既存システムのサービスが終了を迎えることに加え、同社のグローバル展開を加速する上で海外拠点も含めたワークフローを統合できるような仕組みを必要としているからだ。この新システム導入に向けて、荒川さん自身も国内外のBPM(ビジネスプロセス管理)関連製品の研究などを進めているという。
ユーザーの顔が見える
これまでにもさまざまなプロジェクトを経験してきた荒川さんだが、プロジェクトマネジャー(PM)として携わったものの1つが、上述した支払い申請システムの再構築である。ビジネスプロセスの見直しからシステムの思想作り、システムリリースまでを一貫して担当した。楽天からは荒川さんともう1人、ベンダーからは数十人を出す大型プロジェクトだった。
数十人規模のベンダーとプロジェクトを進めるのは初めてだったという荒川さん。工夫したことは何か。「ベンダー側のPMの言うことだけを聞いていると、実際には違うということも少なからずありました。そこで現場の人たちと出来る限りコミュニケーションをとるようにしました。また、事前に開発などにかかわるポリシーやルール作りをしっかり行い、それに沿ってベンダーにある程度お任せするようにしました」と荒川さんは振り返る。
システム自体に関して心掛けたのは、シンプルで分かりやすいシステムを作ること。支払い申請システムは、普段の業務でそれほどシステムに触れていない人でも使わなくてはならないものであるため、ユーザー誰もが操作しやすいようにすることが大切だったからだ。こうした「ユーザー視点」を自然と持つことができたのは、荒川さんが長年、経理担当者と一緒に働いてきたことが大きい。「社内システムは作って終わりではありません。日々ユーザーの顔が見えるので、彼らにとって使い勝手が良いものにしたいという思いがあります」と荒川さんは力を込める。
そうした考えから、システム導入後にユーザーが利用するマニュアル(手順書)も基本的には自分たちで制作した。加えて、初期段階では個別の問い合わせにも積極的に対応することで、ユーザーを支援した。
経営貢献が求められる
今後のキャリアについてどのように考えているか。荒川さんは「経営的な視点が必要」と感じている。ユーザー業務にのっとったシステム作りは今まで培ってきたが、最近は経営視点でのシステム作りを求められることも増えたそうだ。
「いかにITが経営貢献していくか。今後は、楽天の事業戦略全体における情報システムの位置付けをもっと考えていく必要があります。そのための勉強もしていかなくてはなりません」(荒川さん)
マネジメントという点では、新卒社員をはじめとする若手をプロジェクトなどの現場で育てられるマネジャーになりたいという。そうした仕事を通じて荒川さん自身の経験や身に付けたノウハウなどを伝えていければと考えている。
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