「優先席付近では電源オフ」? 携帯電話利用にみるルールのあり方:萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(1/3 ページ)
電車の優先席付近で長らく携帯電話の電源オフが叫ばれてきたが、ようやく緩和された。それでもこの変更に異議を唱える声が少なくない。ルールがどうあるべきか、紐解いてみたい。
10月から一部の鉄道会社で携帯電話の使用ルールが変更された。9月までは「優先席付近では携帯電話の電源をお切りください」だったが、10月1日から「優先席付近では混雑時には携帯電話の電源をお切りください」となったわけだ。
鉄道の優先席は他国ではほとんど例がないし、車内での携帯電話ルール自体も歴史が浅いことから、最近でも優先席付近でのトラブルを目撃する。筆者はずっと「優先席付近では携帯電話の電源をお切りください」のルールに反対の立場であり、もちろん配慮しながらも電源を切ることはなかった。ご批判もあるとは思うが、その理由を述べてみたい。
昔の携帯電話の電波は危険?
その昔、携帯電話のアンテナ入力はPDC方式では送信周波数が800MHzでも、1.5GHzでも800ミリワットだった。PHSは80ミリワット、W-CDMA方式が250ミリワット、CDMA/CDMA2000方式が200ミリワットである。
そして、数年前のペースメーカーの動作に影響を与えるかどうかの実機テストではCDMAやW-CDMAの場合、試験対象となったペースメーカーの9割以上で干渉を受けないという結果になった。最大干渉距離は1.8センチ、ダイポールアンテナでも6センチであった。
しかもテスト環境は最大出力であり、ペースメーカーにとっては“劣悪な環境”といえる中での実験だ。このテストで最も影響が大きい結果になったのは、PDC方式で送信周波数が800MHz、アンテナ入力が800ミリワットかつダイポールを使用した条件である。約2割のペースメーカーが影響を受け、その中で最大干渉距離は15.5センチだった。総務省はこれにルート2を掛けた21.917センチ、つまりペースメーカーか22センチほど離す必要がある(後日この数値は15センチに改善されている)とした。
この頃、筆者はCDMA方式の携帯電話を利用していたので、ペースメーカーへの影響を全く気にしなかった。上述のテストを踏まえれば、正確には実機テストの最大干渉が1センチなので総務省基準なら1.4センチ離す必要があるものの、この数字の実効値はゼロに等しい。
上述のテスト結果が公表されて以降、次第にその数値は改善していった。主な理由は、(1)ペースメーカーそのもののシールド性能が高くなったこと、(2)ペースメーカーの素材や回路自体が耐干渉電波仕様に移行したこと、(3)携帯各社の周波数帯域の変更や小電力で動作する端末の改良が進んだこと――がある。通信事業者、規格、ペースメーカーの製造会社、携帯電話機器メーカーなどがお互いに良い方向へ改善を進めたことでこの問題が極小化していき、ついには消滅に近い形になったわけだ。
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