「優先席付近では電源オフ」? 携帯電話利用にみるルールのあり方:萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/3 ページ)
電車の優先席付近で長らく携帯電話の電源オフが叫ばれてきたが、ようやく緩和された。それでもこの変更に異議を唱える声が少なくない。ルールがどうあるべきか、紐解いてみたい。
最新のデータ
総務省が2014年3月に「電波の医療機器等への影響に関する調査」という報告書(PDF)を公表している。その結論だけをピックアップしてみると、「植込み型除細動器」「心不全治療用植込み型除細動器」は、以下の条件の機器による干渉について「全ての機種で影響を受けなかった」と報告されている。
- 2.4GHz帯無線LAN方式との組み合せ(W-CDMAおよびIEEE 802.11n)
- 5GHz帯無線LAN方式との組み合せ(同上)
なお、「植込み型心臓ペースメーカー」と「心不全治療用植込み型心臓ペースメーカー」については同じ条件で一部のケースにおいてのみ1割程影響があった。ただし、最大距離は1.5センチであり、その影響は、医療機器のクラス分類で「不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが比較的低いと考えられるもの」とされる「クラスII」であった。
携帯電話の電源をオフにしないワケ
前項で示した各種検証における事実から、筆者は何年も前から電車内で携帯電話の電源オンにしており、今後も続けるつもりでいる。
その理由は、携帯電話が人生に不可欠なものだからだ。電源オフで通信手段が絶たれると、ある人はビッグビジネスのチャンスを逃すかもしれないし、ある人は危篤状態の身内の緊急事態を知らないまま車内で寝ているかもしれない。電源をオフにしていたことで、一生後悔することになるかもしれないリスクを抱えるわけだ。筆者は電源をずっとオンにしており、乗り換えが多い場合はマナーモードにもしていない(両手が資料でふさがっていると設定の切り替えも大変)。
ただし、車内で筆者から電話を掛けることはしないし、掛かってきても、相手の連絡先と名前だけを確認してすぐに切っている。必要最小限の通話にして、低い話声になるように努めているが、これまで「ペースメーカーに影響するだろう」と周囲から誤解を受ける出来事がしばしあった。
筆者が携帯電話の電源をオンにし続けてきたのは、先に挙げた科学的な検証を自分でも調査し、論文を精読した上での判断からだ。ペースメーカーを装填している方が自らの胸ポケットにスマホを入れているところも見ている。それにもかかわらず、「ペースメーカーに影響するから携帯電話の電源を切るべし」と主張する人たちが少なくない。余りにも実態を知らない人が多いと感じるし、イメージだけで拡大解釈しているようにも思える。
いまでは専門家もそのほとんどが、「まず影響を与える心配はない」と言い切る方が多い。それもこうした事実の積み重ねであるし、実績として今まで事件が発生したこともないからに他ならない。
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