世界の言語をつなぎ、国を越えて仲良く話せる人を増やしたい――金山博さん:「自然言語処理」のプロに聞く(3/3 ページ)
人間の話し言葉を分析する「自然言語処理」が注目を集めている。耳慣れない言葉かもしれないが、Siriやしゃべってコンシェルなど、私たちは知らず知らずのうちにその恩恵を受けているのだ。そこで「Watson」のシステムを支える研究員に、自然言語処理の面白さと未来について聞いてみた。
言語を通じて、相手の文化を理解する
言語の魅力にハマって以降、金山さんはさまざまな国に旅行に行くようになった。初めて海外に出たのは大学3年生のとき。フランスとドイツを回り、あえて英語が通じない田舎町で学んだ言葉が通じるか試したそうだ。
「高校生のころまでは海外には怖いイメージがあって敬遠していたのですが、実際に現地で学んだ文法を使って話してみると、怖さが払拭されました。意外と話が通じたのがうれしかったですね。やはり、現地の言語で話すと喜ばれるんですよ。大切なのは相手を理解しようとすること。最初は記号的な部分に魅力を感じた言語ですが、今は言語を通じて文化を知ったり、コミュニケーションをするのが楽しくなってきました」(金山さん)
現在は日本の離島に旅行に行くことも趣味となっている金山さん。その土地ならではの文化を知るのが楽しいという。「自動翻訳や言語処理技術を通じて、国を越えて仲良く話せる人がもっと増えたらいい」と目を輝かせる。こうした趣味も研究の原動力となっているようだ。
自然言語処理の“これから”
今後、自然言語処理はどのように進化していくのか。「ニューラルネットワークとディープラーニングが当分はトレンドになるでしょう」と金山さんは予想する。しかし、そのアプローチが正しい方向に向かっているかは議論の余地があるという。
「今はとにかくさまざまな言葉を読み込ませて、正しい解析ができる確率を上げていくというアプローチが主流ですが、『Aという傾向があるならBと答えよ』というある意味“条件反射”的な側面があり、コンピュータが本当に言語を理解しているかというと疑問が残ります。良い意味でも悪い意味でもデータに依存しますし、今でこそ人間のために書かれた自然な文章が蓄積されているので良いのですが、今後の技術の方向によっては、製品の宣伝文句となる言葉をWeb上などにばらまくとか、データを意図的に乱すといった“言葉テロ”のようなことが起こって、言語そのものがゆがめられてしまうかもしれません」(金山さん)
「個人的には人間が持つ文法の知識は機械にも持っていてほしい」という金山さん。人間と共有できる知識を使って言語処理を行えば、データ量に依存しない形で、より多くの種類の言語表現をカバーできる可能性があるという。
「今の目標は、さまざまな言語に対して分析の技術が生かせる土台となる技術を生み出すこと。各言語にはそれぞれ良さや背景となる文化があるので、エスペラントのような“世界共通語”が作れるわけではありませんが、人間と機械が一緒になって、より多くの言語を読み解けたらいいなと思っています」(金山さん)
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