もし亡くなったら――いま熱いデジタル遺品(前編):萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(1/2 ページ)
近い将来に大きな問題となるのが、自分や身近な人が亡くなった時における大切な写真やメール、インターネットサービスなどのデータだ。この「デジタル遺品」について解説しよう。
ある日来た「デジタル遺品」の相談
筆者が「デジタル遺品」に興味を持つきっかけは、10年以上も前に女性から届いた1通のメールからだった。そこには50代の夫が急死したこと、今までの家庭の資産管理を全て夫が行っていたこと、夫が資産のほとんどについて自分のPCで作業をしていたこと、自分がPCについては全くの素人であること、パスワードも分からないこと――などが記され、どうしていいか教えてほしいということであった。
その後、筆者はパスワードを解析して奥さんに知らせ、基本的なPCの操作方法は知っているようなので、ご自身で作業してほしいと伝えた。そこでの重要なポイントを次にようにお伝えした。
- どういう金融機関(銀行、証券、保険など)で、どういう取引があったのかを調べる
- 特に現在も取引途中になっているもの(株や先物、ネットオークションなど)は速やかに「手仕舞し」する
- 現物の通帳やカード、印鑑、実印などと同じくらい重要なデジタル情報はまずは紙に残して、現物との突き合せや関係する会社などに相談する
- クレジット明細の中でネットの月会員費などがあればすぐに脱退する
- そのための重要な手がかりはメールなのでPC内のメールを全てチェック
その後、個別具体的な作業について質問を幾つかいただいたが、奥さんに弁護士がついてからは質問が来なくなり、しばらくすると音沙汰がなくなったのである。この出来事を通して様々な教訓を得た。そして、数年前に筆者の身内でも悲しいことが起き、「事実は小説より奇なり」を文字通り味わうことになった。
それはガンで急死した義兄のことだった。発見した時は既に手遅れの状態で、しかも50代であり、医師でもあった。誰もが「そんなバカな!」と驚いた。自分がこういう事になろうとは全く想定していなかっただろう。しかし、既に手遅れという事態に彼は職業柄極めて冷静に対応した。その1つがデジタル遺産の継承であった。
彼の家庭もまさしく資産管理の全て彼が担っており、趣味がネットオークションやネット通販ではないかと思われるほどネットに浸かっていた。時々専門的な質問をされてびっくりしたこともあった。
彼が亡くなる直前、義兄はPCについて素人の妻に基本的な操作方法を教え、ログインパスワードなどの設定も無効にして、後は自分で作業してもらうためにネットバンキングのID、パスワードなどについて全て伝えた。会員制の専門サイトや購読料が必要なWebサイトなども全て解約し、クレジットカードから引き落としされないようにした。そして、彼は若いゆえに進行も早く、様々な薬も療法も効果なくしばらくして亡くなった。
しかし、やはり「漏れ」があった。例えばインターネットプロバイダーの解約は、彼が途中で契約先を変更していたのでその手続きが煩雑を極めた。スマートフォンのメールやLINEなどの情報もチェックしていなかったので、知人への連絡がギリギリになってしまった。
こうした経験や反省を通じてこの10月に、デジタル遺品に関する1冊の本を刊行した。若干手前味噌で申し訳ないが、「デジタル遺品が危ない」(ポプラ社)というものである。
このデジタル遺品については若者も中高年も、そして高齢者にもかかわってくる問題だ。それゆえに様々な見方があると思う。筆者は「情報セキュリティ専門家」と同時に「終活カウンセラー」としても活動していて、いざという時のためのヒントをお伝えしたいと考えている。
今回はその前編として、そもそもなぜ相続によるトラブルが急増しているのか、その根本的な要因を解説したい。そして次回は後編として、相続の1つあたるデジタル遺品について、なぜ遺産相続人の立場では困惑するものになり、冷静な対応ができなくなってしまうのかについて解説しよう。トラブルを防止するための対策や、周囲が見落としがちなポイントを紹介したいと思う。
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