もし亡くなったら――いま熱いデジタル遺品(前編):萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/2 ページ)
近い将来に大きな問題となるのが、自分や身近な人が亡くなった時における大切な写真やメール、インターネットサービスなどのデータだ。この「デジタル遺品」について解説しよう。
あなたは「争続」? それとも「想続」?
先日から毎週地上波のテレビ放送で「遺産争続」が取り上げられている。「争続」の漢字が間違っていると思わるかもしれないが、いまや「相続」は骨肉の争いの場となっており、実態は「争続」につながるばかりだ。しかし、事前に関係者同士がとよく話し合い、納得されることで「想続」にすることができる。
通常のご家庭ではこういう声をよく耳にする。
「うちは相続なんて関係ない。そんな財産なんてない」
「うちの子供たちは心根が優しい。遺産で争うはずがない」
みなさんこうおっしゃるが、現実は全く違う。
相続による裁判も急増している。しかも相続する財産が問題であり、裁判沙汰となった相続の約3割は財産が1000万円以下だ。ちなみに、首都圏で30坪の一戸建てに住んでいれば評価額は1000万円以下になることは少なく、現預金や株券などを含めれば、軽く超えるだろう。
実は、相続とは無縁と思われるご家庭ほど「争続」となっていることに注目していただきたい。逆に財産が数十億円以上になる相続で「争い」にまで至るケースは非常にまれだ。その理由は極めて簡単で、財産の多くが「土地と家屋」である庶民に比べ、多額の資産になる場合は現預金や宝飾品、金や絵画などが豊富にある「分割しやすい財産」となっていることから、争うにまで至らない。
また、ドラマなどでは遺言書による相続割合が問題に描かれるが、現実に遺言書を作成する人は1%に満たない。基本的な割合は法律に準じることになるケースが多い。ところが庶民の場合は、分割できない「土地と家屋」が遺産全体の多くを占める。一般的なケースはこうだ。
家族構成:母親70代、長男40代、長女40代
父親が10年前に他界。長男夫婦が同居し、母親を5、6年前から看護している。長女は遠隔地に嫁いだ。長男は母親の介護のため有給をぎりぎりまで消化し、父親の財産とともに自分の財産すり減らしながら介護をしてきた。長女は正月と盆に顔を見せる程度だった。
こういう環境で母親が亡くなったと仮定する。すると、すぐに遺産相続の話となるが、長男は「こっちは多くの苦労をして介護をしてきた。せめてこの土地と建物は譲ってほしい」という。しかし長女は「半分は私の権利だ。現金は死亡保険金と併せても300万円。自宅の評価額は1800万円だから、計2100万円になる、その半分の1050万円を現金でくれればいい」と。
しかし長男は納得できないだろう。そんな現金もないし、それまで苦労して介護し、長女に譲れるのは死亡保険金くらいだと考える。長男と長女はかつて仲が良かった。そんな長女が「現金を用意できないなら競売しろ」といって弁護士を立てきた。
裁判になると、まず長男に勝ち目はない。相続と介護費用や苦労の問題は切り離して検討されるのが通例だ。よって自宅が強制的に競売にかけられ、長男は住み慣れた自宅を手放し、アパート暮らしになる。せめて介護での負担を長女に請求しようと思っても、「領収書を出せ」と言われるが、せいぜい1年分くらいしか得られない。この時点で完全に子どもたちの縁が切れる。
いま、こういう“相続プア”になってしまう事象が全国で多発している。たぶん天国で母親は、「私がが甘かった。きちんと整理し、誰に何を相続させるのか、生前から子どもたちが納得して、きちんと遺言書をしたためておくべきだった」と嘆いているだろう。
次回は核心であるデジタル遺品の定義から入り、なぜ皆さんが苦労しているのか、そしてその対応策について述べたいと思う。
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萩原栄幸
日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。
組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。
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