医療機関で「パブリッククラウド」は使えるか? 長野市民病院の挑戦(2/2 ページ)
患者のプライバシーに関わる情報を多数扱うことから、クラウドの導入が進みにくい医療業界。その中で、電子カルテのバックアップにパブリッククラウドを導入した医療機関がある。規制やセキュリティ対策など、どのようにしてその壁を乗り越えたのだろうか。
Azureの日本リージョン登場が転機に
ところが、パブリッククラウドの導入計画を進めていた高野さんの前にもう1つの壁が現れた。それが価格だ。大手のSIerと相談したところ、「ホスティング(レンタル)に加えてハウジング(サーバ購入)もするサービス体制がほとんどで、初期費用に5年間のランニングコストを見込めば1000万円。とても手が出なかった」(高野さん)という。
加えてITベンダーやSIerからの「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」準拠に対するフォローも乏しく、導入へ踏み出すことができずに3年もの間、プロジェクトは止まってしまったという。
転機が訪れたのは2014年2月。Microsoft Azureのデータセンターが日本に設置されたことだ(関連記事)。フォッサマグナから離れた場所にある西日本リージョンのデータセンターを使え、価格面でもスモールスタートが可能になった。そして、幹部に向けて導入を説明する際には“日本マイクロソフト”というブランドが役に立ったという。
「院長をはじめ、病院の幹部に話を通す際には“日本マイクロソフト”というブランドの安心感が有効でした。価格が安いこともあって、まるで“掛け捨て保険”のような感覚で導入を進められたのは大きかったですね。データが3重化され、分散して保管される体制も安心感につながりましたし、懸念していたガイドラインの準拠についても、ていねいに対応してくれました」(高野さん)
パブリッククラウド活用の先駆けに
高野さんがAzure導入に向けた話し合いをマイクロソフトと始めたのは2014年4月ごろのこと。1カ月の試用を経て、同年8月からはQNAP製NASの評価機を利用してダミーデータによるバックアップの検証を行った。
バックアップシステムは既存システムになるべく手を加えず、自前で構築した。電子カルテのデータをバックアップサーバにリアルタイムでレプリケーション。電子カルテのベンダーから中間ファイルをもらい、QNAP製NASを通じてAzureに送信するという仕組みだ。暗号化はしているものの、HTTPSで送信しているという。
そして10月には本番用NASを設定、11月にシステムの稼働を開始した。本番の設定は「拍子抜けするほど簡単で、ファイアウォールの設定から何から全てが1日弱で終わった」(高野さん)そうだ。クラウドを使うことで、電子カルテのバックアップを安価かつ、手軽に保管できる環境を構築できたと高野さんは強調する。
「医療業界におけるクラウド活用はまだまだ進んでいません。今回は暗号化したデータではありますが、パブリッククラウドにデータをアップしたというのは、大きな第一歩になると考えています」(高野さん)
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