ホンダのF1復活への布石、データでIBMと組む理由とは?:IBM InterConnect 2016 Report(2/2 ページ)
2015年にパワーサプライヤーとしてF1に復帰したホンダ。年々厳しくなるF1のルールに対応すべく、日本IBMとデータ分析システムを構築した。開幕が近づく2016年シーズンに向けた取り組みを聞く。
名田氏によると、2015年シーズンはデータの収集・蓄積やパラメータの検討などに重きが置かれた。レース参戦初年ということもあり、ベースとなる実戦でデータを集めなくてはならなかった。2016年シーズンは、2015年のデータの分析から得られた知見の成果が試されるかもしれない。特に重視するのが信頼性の向上だといい、2015年のデータから監視すべきパラメータを設定して故障などの予兆を検知できるようにしたいとしている。パラメータ自体もまた、それが正しいものであるかを常に確認、検討を重ねていくという。
こうしたデータ活用のパートナーにIBMを選んだ理由は、「アナリティクスに対する知見と、パワーユニットのマネジメントを可能にするための技術です」(名田氏)とのことだ。
システムやアプリケーションを担当するデジタル開発推進室 CISブロック 主任研究員の阿久澤憲司氏によると、F1マシンから収集するデータ量は1レースあたり5Gバイトほどになり、パワーユニットのセンサからECU(エンジンコントロールユニット)に集約され、無線でピットに送信される。さらに、ピットから専用回線でHRD Sakuraのシステムに送信されてくる。これはデータのセキュリティとネットワークの遅延を考慮した対応だという。「現在はセキュリティ要件からクラウドを採用していませんが、魅力は感じています。特にサーキットは世界各地にあるので遅延が大きな問題になりやすく、その改善につながるといいですね」(阿久澤氏)
名田氏もネットワーク遅延に対する課題をこう話す。「レース中のタイムラグは大きな損失です。パラメータに異常が見つかっても、(日本でそれが分かるまでに)10秒もかかるようではパワーユニットが故障する前に何も手を打てません。体感的に言っても遅延は3秒が限界。もっとリアルタイムに近づけたいですね」
パラメータの変化からパワーユニットの異常が予想されると数秒以内に判断できれば、ドライバーに安全策を選ぶように伝えることもできるようになる。仮に、上位争いをしている最中なら故障のリスクと取ってでも“攻め”の走行方法を選び、逆に多くの周回数が残されている状況なら大事を取ってパワーユニットに負荷を与えない走行方法に切り替えるという具合だ。実際にはチームやドライバー、ホンダの合意に基づくが、パワーユニットの信頼性が向上すればレースにおける状況変化における対応の選択肢は確実に広がるだろう。
IBMへの期待として挙げられた「パワーユニットのマネジメントを可能にするための技術」としては、名田氏は「オンボード(車上)でできるようにしたい」と話す。具体的には、ECU側でセンサの各種情報を分析して自律的に制御できるようにする「エッジコンピューティング」とも呼ばれるものだ。
今後のレギュレーション変更ではピットとドライバーの無線による交信を段階的に規制していくことが検討され、万一の異常への対応などが難しくなってしまう恐れがある。「ドライバーへの伝達手段が限られていく中で、パワーユニットの状況や指示をどううまく伝えるかを検討しなければなりません。(F1マシンの中で)ECUからドライバーに働きかけられるようなものにしたいと考えています」(名田氏)
また、パワーユニットの状況を知るにはセンサのデータだけではなく、ドライバーからもたらされる感覚など定量化の難しいフィードバックも大きいという。「マシンの乗り味といったものをどうパラメータとして定義するのか、ドライバーのコメントを示すものがデータのどこにあるのかといったことなどはまだ難しいところですね」(名田氏)
この取り組みが発表された日(2016年2月23日)は、スペインで2016年の新車のテストがスタート。F1での久しぶりホンダのパワーユニットによる優勝に期待がかかる。
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