第5回:“スマホで少額送金”サービスが日本で普及しないわけ:今さら聞けない「FinTech」の基礎知識
海外では人々の暮らしの中に浸透しているFinTechの送金サービスだが、日本市場は普及が遅れている。そこにはどんな理由があるのか?
本連載の第2回で紹介したように、送金サービスは海外で、海外で人々の暮らしの中に浸透しているFinTechサービスの1つだ。さまざまなFinTech領域のサービスの中で、もっとも身近なサービスといっても過言ではないだろう。「WorldRemit」(米)や「Transferwise」(英)、「Venmo」(2015年Paypalが買収)、「XOOM」(2015年にPaypalが買収)、「M-pesa」(ケニア)など、そのサービスは枚挙にいとまがない。
これらの送金サービスは、「銀行口座を持てない、いわゆる『アンバンクト』の層が多い」「母国に送金が必要な出稼ぎ労働者が多い」「小切手社会のため、個人間送金の文化やインフラが整っていない」といった社会背景の国での普及が著しい。携帯やスマホを持っていれば送金できるという利便性ゆえといえるだろう。
“スマホで気軽に送金できる”サービスが日本で浸透しないわけ
日本でも、送金分野のFinTechサービスが登場し始めている。2010年、もともと銀行等金融機関の業務であった送金業務が、少額為替に限って銀行以外での取り扱いが解禁されたためだ。しかし、2015年12月末時点で資金移動業登録業者が43社に達し、身近に利用できるサービスとして「LINEPAY」や「ドコモ口座」といったサービスが登場したものの、こうした銀行以外の送金サービスが生活の一部として浸透するまでには至っていない。
その理由としては、日本で銀行が提供している送金サービスの利便性の高さが挙げられる。国内送金については、もともと銀行による送金ネットワークが非常に発達しており、わざわざ支店に行かなくても、ATMやインターネット、スマホでの送金が可能となっている。その上、犯罪収益移転防止法の兼ね合いで、銀行以外の送金サービスで口座を開設しようとすると、本人確認手続きが煩わしく、そうまでして銀行以外の送金サービスを使いたいというニーズが少ないのも理由の1つだ。
日本でFintech企業による「銀行を利用しない送金サービス」が普及するには、いろいろと乗り越えなければいけない壁があるが、銀行がFintech企業とともに「銀行を利用した新たな送金サービス」を作り上げる余地は、十分にあるのではないかと筆者は考えている。
そのためのポイントは、銀行口座からの入出金コストの大幅な引き下げが可能かどうかであろう。米国では、ACH(小口決済システム)という、銀行への入出金を安価に行えるインフラがある。日本でもこのような仕組み(全ての銀行でなくても、一部の銀行だけの参加でも良い)が構築できれば、活用したいというベンチャー企業は多いはずだ。
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