第20回 戦艦大和の防御構造に学ぶ効率的な守り方(前編):日本型セキュリティの現実と理想(1/3 ページ)
4月7日は戦艦「大和」が沖縄に向かう途中の坊津沖に沈没してから71年にあたる。今回はこの戦艦「大和」の防御構造を例に、当時の日本と同様にいまの限られたリソースで守らなければならない情報セキュリティの効率的な守り方について考える。
今でも世界最大の戦艦「大和」
「大和」は、1940年8月に進水した世界最大の6万4000トンの基準排水量と、世界最大の18インチ(46センチ)砲を9門搭載した“世界最大”の戦艦だ。これは現在でも破られていない。現代までこのような巨大戦艦が作らなかったり、戦前の軍縮条約で建艦制限があったことや、当時世界最大の国力と工業力も持つ米国にパナマ運河の幅という制限があったりしたことなどを考慮しても、当時の日本がそれだけの開発力と工業力ももっていたのは紛れもない事実であろう。
しかし、「大和」はその世界最大の18インチ砲という攻撃力を持ちながら、結局は攻撃らしい攻撃をせずに沈んでしまった悲しい運命の戦艦でもあった。今回は、その攻撃力よりも特徴的な防御構造を掘り下げながら、現在の情報セキュリティ対策における効率的な守り方について考えてみたい。
“小さい”が特徴の世界最大戦艦
日本海軍が「大和」の建造を計画したのは1934年10月である。翌年にワシントン海軍軍縮条約の期限が切れるのを見据えてのことだった。ワシントン海軍軍縮条約では、米英日ほかの列強の建艦競争を抑えるため、戦艦でも基準排水量3万5,000トン以下、主砲の口径16インチ(40センチ)という制限が定められていた。詳しい諸元や性能などは後に述べるが、「大和」はこれまでのこの世界基準を大きく超えるスケールで完成した。
「大和」の特徴は世界最大の主砲と大きさ(基準排水量)となるが、全く矛盾して「きわめて小さいことが特徴」と言われることもある。こう書くと何かの冗談か間違いのように聞こえるかもしれないが、これが「大和」の真実により近い。
「大和」が世界最大という根拠は「排水量」になる。排水量とは、船の大きさではなく重さであり、つまり「大和」が「世界で最も重い戦艦」だったことを示している。重量がかさんだ原因のほとんどは、18インチ砲のためだ。3連装砲1基で通常の駆逐艦ほどの大きさがあり、それを3基も搭載している。それだけの重量物があるから、その分重くなるのは当然だ。しかも、その重い砲塔を船の甲板上に置く。これを乗せる船が軽いと重心は高くなり、不安定で転覆しやすくなる。それを避けるために、一定以上の重量にすることでやっと安定する。
その証拠に同じ時代のライバルとされる米国のアオイワ級は基準排水量4万8,500トンと、「大和」より1万5,500トンも少ないにも関わらず、全長は7メートル以上長い。「大和」と同じ18インチ主砲×9門を搭載する場合、一般的な設計にすると7万トンから8万トンほどにもなると言われる。このように「大和」は、極めて小さく作られた世界最大の戦艦という矛盾した要素を併せ持つ奇妙な存在なのだ。
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