第8回 SDS導入のきっかけと効果、あえて一斉導入しなかった国内商社の場合:データで戦う企業のためのIT処方箋(2/2 ページ)
前回はSDSの一斉導入に踏み切った欧州のユーザー企業事例をご紹介しました。今回は“あえて”一斉導入をしなかった国内の専門商社のケースを取り上げてみます。
得られた効果
SDS基盤への一足飛びの導入ができなかったわけですが、結果としていくつかの効果が表れました。
- 運用効率の改善:基本的には自動運用を前提として運用が統一されたため、担当者の増員なくこれまで以上のシステムに対応できた
- 実装コストの低減:ソフトウェアによる部分導入(スモールスタート)から始められ、無駄のない展開ができた。また、ネットワーク回線費用についても効率化機能を標準搭載しているものを選定し、別の専用ネットワーク機器などは不要になった
- 将来の基盤統合、SDI化に向けた基盤構築:DR側のシステムを将来基盤のプロトタイプとして捉え、移行テストなどにも活用することで、次期の移行、拡張時にSDIを前提とした検討が具体的に行えるようになった。また、データ保護という一部機能だけでも実際のSDSアーキテクチャに触れることができ、理解を早める結果につながった
このプロジェクトでは機能要件の追加を行うものですので、全体コストはそれなりにかかっています。ただ、これをきっかけにこれまで以上の自動運用や一連の作業を連続して一本化する統合化が検討、実装しやすくなったという副次的な効果もありました。SDSそのものの導入事例ではないですが、SDSに向かうための「ワンステップ」として、こういうアプローチもあるということです。
SDSで実現できるメリット
2回にわたってSDSに関する事例を挙げました。これは、いまある「人」「モノ」「データ」というリソースを考慮した結果として、SDSへの全面移行が全てではない、という点が伝えしたかったポイントです。
いずれの事例も目的、要件にあった効果は得られていますが、理想に向けてどのようなステップを踏んでいくか、という進め方は企業によってそれぞれ違います。両社に共通する「効果」は、将来のシステム更改時の移行のしやすさや自動化、効率化による手間の軽減があります。これはSDSの提供する価値そのものですが、この効果は企業規模や導入規模によらず有効です。
一度の導入で変更できれば、それ以降の追加導入や移行は非常に簡単です。ただ、現実的にはシステムの管理方法や更新時期の違い、担保したい機能、性能性も違いますし、企業によっては部門間での調整といった様々な要因で一足飛びの導入は難しいところです。次の図は、筆者の会社が提供しているSDS製品を例にした提供されるデータサービスです。
前回取り上げたSunrise Communicationsの事例では、10人で管理を継続しながら改善しなければいけないという厳しい制約から、できる限り早く導入することで効果を早急に実現する、という点が優先され、一気に上図の全体をカバーしたSDSを含むSDIへの移行を決定しました。
ただし日本企業では、自社だけでなく外部のSIerなどとも連携することが多く、同じようにここまで一気に進めることは難しいでしょう。今回の専門商社A社のように、上図でいえば右側の「データ複製/保護」のように、一部分だけを導入することになることが多いでしょう。ですがそのような場合でも、ぜひSDSまたはSDSの考え方を念頭に置いて対策を検討し、いまできるところから着手して全体をカバーするようステップアップしていく、という導入方法もSDSであれば実現が可能です。
ストレージは基本的にボリュームメリットがよく働く分野で、一度に大量購入すればするほどに単価が下がります。SDSを採用した場合も同様で、例えば、部門ファイルサーバとして数テラバイト分のストレージだけを買う企業と、ペタバイト単位のアプリケーションデータ用ストレージを買う企業では大きく効果が変わります。部分導入や分割導入であっても、第4回でも説明した全体最適を見据えて検討することを心がけることで、いままで以上に楽に、より便利にシステムを設計、構築、展開、管理運用していけます。自社だけでは検討が難しいなら、何かのシステム更新案件が予定されているのであれば、一度この点も「将来像」として、そのシステムだけでなく企業全体にメリットのある提案をしてもらうよう、SIerに求めて見るのもいいでしょう。
前回と今回にわたってご紹介したSDSの事例ですが、SDSは海外では成長期から成熟期に入り、日本国内ではようやく成長期に入ったばかりです。新しい技術だけに、これまでの経験からは思いつかない用途や運用が実現できることもあります。事例については大手から新興まで様々なベンダーが国内外を問わず公開を始めていますので、自社の環境や運用に合いそうなものがないか、気軽に説明や紹介を求めてみることをお勧めします。
次回は少し趣向を変えて、企業がデータ管理基盤についてこれからの方向性を決めるときの参考になるよう、データ管理に対して比較的先進的な海外と、比較的保守的な日本でのアプローチの違いを紹介したいと思います。
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