ITの“カンブリア大爆発”:ITソリューション塾(2/2 ページ)
約5億5000万年前に生物の爆発的な多様化が始まったとされる「カンブリア大爆発」。実は、同じことがITの世界にも起きようとしているのかもしれない――そんなITの進化の行方を、ITの歴史をひもときながら考察します。
2004年〜 クラウド時代の到来
「インターネット」に新たな役割が加えられるようになりました。それは、「いつでもどこでも、インターネットにつながれば、望むサービスを受けられるようになる」という仕組みの登場です。2004年にGoogleが始めたGmail(β版)は、そんな時代の先駆けとなるものでした。「クラウドコンピューティング」時代の幕開けともいえるでしょう。
続く2006年のAmazon EC2と2008年のWindows Azure Platformの登場は、クラウドを企業システムと結び付けました。Googleはその対象が一般の人たちであったのに対して、両者は企業ユーザーを対象にするものでした。
また、同じ2004年にはFacebookが、2006年にはTwitterが誕生しています。クラウド時代の幕開けは同時にソーシャル時代の幕開けでもあったのです。
2007年〜 モバイルと人工知能の登場
2007年のiPhoneの登場は、モバイルという利用形態を普及させ、ITに関わるユーザーの裾野や用途を大きく広げるきっかけを作りました。これによりモバイルネットワークのコスト低下、センサーを組み込んだデバイス、インターネットへの接続といったIoTの下地が作られていったのです。また、モバイルはソーシャルを爆発的に普及させるプラットフォームともなりました。
同じ年の2007年、IBMのスーパーコンピュータDeep Blueがチェスの世界チャンピオンを破り、2011年にIBMの質問応答システム、Watsonが米国の人気クイズ番組で優勝、2012年には人工知能の新たなアルゴリズムであるDeep Learningがコンテストで2位を圧倒的に引き離す好成績をたたき出したことで、人工知能への注目が急速に高まりました。
テクノロジーの進化とITビジネスの行方は……
モバイルと人工知能の組み合せは、音声認識やジェスチャー入力といったモバイルのユーザーインタフェースをより使いやすい形に変えていくでしょう。また、人工知能はロボットと組み合わされ、人と機械との関わり方や役割分担を変えていくでしょう。
あらためて今の時代を俯瞰すると、「クラウド」「ソーシャル」「モバイル」「人工知能」が混在し、お互いに影響を及ぼし合っている、そんな複雑な時代といえるでしょう。分かりやすいパラダイムの変化といえるものがないのです。かつてのような、メインフレームからの小型コンピュータへのダウンサイジング、集中処理から分散処理/クライアントサーバといった企業システムにおける処理形態の変化のような単純さはありません。日常生活や社会活動に広く深く関わり、ビジネスのあり方や価値観、政治や経済にも、ITがこれまでになく影響を与えつつあります。これを単純な図式で表せないことが、ITビジネスを難しくしています。
「テクノロジーは、生物界と同様に、自律的に成長し、進化していく」
US版『WIRED』の創刊編集長であったケヴィン・ケリーの著書『テクニウム』にはこのようなことが書かれています。つまり、本来、人間の意志で生まれ、人間によってコントロールされていると考えがちなテクノロジーは、実際はテクノロジー自身が自律的な意志を持って進化しているのだと彼はいっているのです。
もしそうだとすれば、およそ5億5000万年前に、それまで数十数種しかなかった生物が突如として1万種にも爆発的に増加した「カンブリア大爆発」が、ITの世界に起きてもおかしくはありません。「カンブリア大爆発」により、さまざまな形態を持った生物が生まれ、食うか食われるかの競争と淘汰(とうた)を繰り返しながら生物の多様性が育まれ、生態系が築かれていきました。
ITの世界でも、この大爆発のような複雑な混沌が支配し、これまでの常識とは大きく逸脱した新しい常識が生まれつつあります。これは、これまでとは明らかに異なるIT活用の新たな可能性が生み出されつつあるともいえます。そして、競争と淘汰を繰り返し、ITの新たなエコシステム=生態系を形成していくことになるのかもしれません。
今の時代が、ITの「カンブリア大爆発」かどうかは歴史の評価にゆだねるしかありません。しかし、これまでにはない、常識の転換が進みつつあることはだけは確かなように思います。
こういう時代を理解するためには、原理原則にあらためて立ち返り、テクノロジーの本源を理解する努力が必要になるでしょう。表面的な現象として現れるキーワードに惑わされるべきではありません。それらがもたらす価値や意義をしっかりと理解することです。歴史を学ぶことで、その理解を助けてくれるはずです。
ケヴィン・ケリーが語るように、テクノロジーが自律的に進化するのであれば、われわれ人間に残された道は「適応」しかないのです。
「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ」
進化論を唱えたダーウィンの言葉だとの説もあります。
- この変化を正しく理解する努力
- どう適応するかの知恵と工夫
- 行動し、失敗し、成功を選択するプロセス
ITビジネスは、いまこんな時代に向き合っているのかもしれません。
著者プロフィル:斎藤昌義
日本IBMで営業として大手電気・電子製造業の顧客を担当。1995年に日本IBMを退職し、次代のITビジネス開発と人材育成を支援するネットコマースを設立。代表取締役に就任し、現在に至る。詳しいプロフィルはこちら。最新テクノロジーやビジネスの動向をまとめたプレゼンテーションデータをロイヤルティーフリーで提供する「ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA」はこちら。
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