ビッグデータ利用における欧州での個人データ匿名化技術:ビッグデータ利活用と問題解決のいま(2/3 ページ)
前回は健康医療分野を題材に、個人データ匿名化の日米比較を行った。今回は個人データ保護ルールの厳格化が進む欧州連合(EU)の匿名化技術動向を取り上げる。
現在EUは、域内デジタルマーケットの障壁撤廃を目指す「欧州デジタル単一市場戦略」を推進しており、以下のような項目に取り組んでいる(関連情報)。
- 小包配送
- 電子商取引
- 欧州のプラットフォーム
- コラボレーティブ経済
- ジオブロッキング
- ビッグデータ
- 標準化と相互運用性
- 知的所有権の執行
- 電子政府
同時に欧州委員会は、EU個人データ保護規則がビッグデータを始めとする「欧州デジタル単一市場戦略」に関わる既存の法規制(例.eプライバシー指令)に対して及ぼす影響度について評価している(関連情報。イノベーションと個人データ保護のバランスの観点から、評価結果を注視したい。
匿名化ガイドラインの役割を果たす意見書
現行のEUデータ保護指令や2018年5月から適用されるEUデータ保護規則には、匿名化技術に関する基準が具体的に示されていない。その代わりに、匿名化の指針としての役割を果たしているのが、第29条データ保護作業部会が2014年4月10日に公表した「匿名化技術に関する意見書」だ(図1参照、関連PDF)。
出典:ARTICLE 29 DATA PROTECTION WORKING PARTY「Opinion 05/2014 on Anonymisation Techniques」、2014年4月10日)
この意見書は、EUのICT政策の柱である電子政府/オープンデータの利点を活用するために必要な個人データ匿名化技術の適正利用について整理したものであり、以下の3項目を基準としている。
- 個人を選定することは依然として可能か
- 個人に関する記録とリンクさせることは依然として可能か
- 個人に関して情報を推測することは可能か
その上で、具体的な匿名化手法として「ノイズ付加」「置換」「差分プライバシー」「集約」「k-匿名化」「I-多様性」「t-近似性」に関する検討を行っている。
意見書は、匿名化技術が工学的に適正な形で適用された場合のみに、プライバシーを保証することができ、効率的な匿名化プロセスを作り出すのに役立てられるとしている。米国と同様にEUにおいても、完璧な匿名化技術が存在しないのが現状であり、意見書の検討内容を踏まえながら、複数の匿名化技術を組み合わせて利用することを推奨している。
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