18分で会社が作れる、エストニアのデジタル社会インフラ事情:CODE BLUE 2016 Report(2/2 ページ)
情報セキュリティの国際会議「CODE BLUE 2016」では、電子政府化を推進するエストニアの取り組みが紹介された。利便性と安全性を両立するデジタル社会インフラとして注目されている。
データ中心のセキュリティで安全と信頼を確保する
電子化とオンライン化によって高度な社会サービスを実現している同国だが、サービス間でやり取りされる国民の情報は非常に機密性が高いだけに、パイペラル氏は情報の安全性とサービスの利便性に対する国民の信頼が最も重要だと話す。
各種サービスを利用するにあたって欠かせないのが、電子個人認証の仕組みになる。日本のマイナンバーと同様に、エストニアでも国民のID情報が各種サービスで用いられる。政府が発行するIDカードの所有率は94%以上で、スマートフォンなどで利用可能な「モバイルID」も国民の7%が利用しているという。
国民がオンラインで各種サービスを利用する際には、まずIDカードなどによる本人認証を行う。本人情報はIDカードの内部で暗号化され堅牢に保護されているといい、認証操作には複数の手段が利用できるという。モバイルIDについても、SIMカード内部に本人情報が記録されているが、やはり堅牢な保護を講じているという。
パイペラル氏によると、多くの国が採用する中央集約型のインフラでは中核となるシステムの防御が最も重要だが、X-ROADのような分散型のインフラではデータがあらゆる場所から利用されるため、データ中心の保護モデルを講じる必要があった。
「外部脅威に備える防御モデルではなく、内部脅威を含むあらゆる脅威に対応しなければなりません。同時に国民の信頼に応える上では透明性も必要です。エストニアでは情報の機密性、可用性、一貫性を担保するために、データを保護するアプローチを採用してきました」(パイペラル氏)
例えば、各種サービスのデータベースに登録されているさまざまなデータを利用する場合、ハッシュ化された情報をブロックチェーンの仕組みによって検証することで、その真正性や一貫性を担保しているという。また、サイバー攻撃などの脅威を完全に防御することはできないという考えを前提に、この仕組みを利用してデータ侵害の可能性を瞬時に検知できるようにし、万一の被害に対応する体制を講じている。
X-ROADなどでやり取りされたデータやログについても、世界各地の同国の大使館に分散バックアップを行っており、ブロックチェーンの仕組みを利用することでそれらの一貫性を担保しているという。
2025年に1000万人の利用を目指す
パイペラル氏によれば、エストニアが社会サービスの電子化を推進する狙いは、輸出主導による国家の成長がある。日本などに比べ内需が極めて限られることから、同国は持続的な経済成長を目指して、電子政府のインフラを“輸出”する。
その1つとして同国は、国外居住者でも政府が発行するIDカードを取得できる「e-Residency」という制度を2014年12月に立ち上げ、これまで約1万3700人にIDカードを発行している。
国外ではロシアや米国居住者からの利用が多く、日本でも300人が利用しているという。e-Residencyを通じて同国で設立された企業も950社以上あるといい、2025年までに国民の10倍近い規模となる1000万人の利用を目指すとしている。
最後にパイペラル氏は、「歴史ある日本は、テクノロジーそのものが伝統になっています」と語り、電子政府を始めとする取り組みを通じた国際連携を呼び掛けた。
関連記事
- 欧州にみるスマートシティのサイバーセキュリティ
ビッグデータとIoTがリアルタイムに連携するスマートシティではセキュリティの脅威にどう対応していくかが大きな焦点となる。今回は取り組みが進む欧州の動きを取り上げる。 - 社会課題の解決にビッグデータを活用するデンマークの取り組み
EU諸国は、スケールメリットを生かした低コスト戦略が主流のクラウド上で、ビッグデータならではの付加価値サービスを開発し、独自性を発揮しようとしている。今回は北欧の社会課題の解決先進国であるデンマークの事例を紹介する。 - 国土の3Dマッピングで土地利用の最適化を図るシンガポールの挑戦
シンガポール政府は、国土を3Dマッピングして都市計画に生かすプロジェクトを開始した。詳細な3Dマップによって何が実現するのだろうか。 - 電子投票の現実――宮城県白石市
選挙での投票率の低下が顕著になって久しい。こうした投票率の低下に歯止めをかけ、よりスピーディーに民意を反映するための救世主として、総務省では電子投票の導入を推進している。しかし、現実はお寒い状況が見て取れる。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.