人工知能と人が、本当の意味で“話せる”ようになる日:【総力特集】人とAIの共存で進化する「おもてなし」(3/4 ページ)
昨今「Watson」や「りんな」など、人間と会話ができる人工知能が注目を集めている。しかし、これらは人間の心を理解してコミュニケーションを取っているかというと、そうではない。いつか本当に人工知能と人が心を通わせるような時代は来るのか。人間と雑談できる対話システムを開発し続ける第一人者に話を聞いた。
人間と人工知能の雑談はなぜ難しい?
明確な目的や答えがある「質問」への対応と、明確な答えがない「雑談」への対応ではシステムの作り方は大きく異なる。質問対応の場合、質問の意味を解析して100種類以上ある回答のタイプ(単語、定義、理由、連想、評判など)から、最も確からしいタイプを見極め、Web上の膨大な言葉から答えを見つけるという仕組みになる。
一方雑談には、話題や回答に正解はない。東中さんたちの研究では、人間の雑談のテーマは何千とあり、一番多いテーマでも全体の1%に満たないことが分かっているという。突然、旅行の話やラーメンの話を振られても、何らかの対応ができるようにしておかなければいけない。
そして「ラーメンが好きなんだよね」と言われれば、「とんこつがいいよね」と答えても、「大阪の○○というお店がおいしい」と答えても、「私はハンバーグが好き」と答えても会話が続く可能性がある。「ラーメンが好き」という発言そのものではなく、その発言が生まれた背景(文脈)や意図をつかむことが重要になるのだ。
雑談対話のシステムを構成するには、とにかく数多くのパターン(ルール)を学習させる方法や、Twitterのリプライなど、Web上にあるデータから会話を抽出する方法など、さまざまなアプローチがあるが、よい応答を実現するのは難しいという。
「正解がない雑談をパターン化するのはキリがないんです。われわれも30万ぐらいのルールを手作業で入力したのですが、それでも利用者の満足度は半分くらいでした。最近では、Twitterやブログなど、Web上から最適と思われる言葉を検索するアプローチもありますが、データにノイズが多すぎて会話がうまく進みません。ネット上にはたくさんの人がいるので、一貫しないことを言ってしまう。
『好きだ』と言うべき場面で『嫌いだ』と言ってしまったり、語尾が統一されていなかったり、突然性別が変わったようなふるまいをしてしまったりして、なかなか対話の満足度が上がらないんですね。最近ではディープラーニングを使う方法も検討していますが、これもまだ精度が低く、それだけに頼るとかなり変な文章が出てきてしまうので、サービスにはまだ導入できない印象があります」(東中さん)
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