「IoTでビジネスはできないだろうか?」という質問への回答:ITソリューション塾(2/2 ページ)
IoTビジネスの展開を考えるとき、成否を分けるものとは? 「ビジネスプロセスを変革する取り組み」という側面からIoTに注目すると、問題の本質が見えてきます。
IoTビジネスで現実をどう変えるか
では、他の選択肢は何かといえば、お客さまのビジネスプロセスの変革に貢献することだ。例えば、コマツの「スマートコンストラクション」は、土木工事の自動化を目指す取り組みだが、それには次のような背景があった。
建設需要が増えているにもかかわらず……
- 高齢化によりベテランの職人が確保できない
- 経験の浅い人材を集めても経験がないので即戦力化できない
- 若い人が3K仕事の土木工事を嫌って集まらない
これらの課題を解決しなければ事業が継続できないという危機感から端を発している。もはや人手に頼った土木工事ではこの課題を解決できない。ならば、テクノロジーを使い、人間がいないことを前提にビジネスプロセスを変革しようと取り組んだ。そして、それを実現するために、自分たちの経験や実績にとらわれることなく、センサーや自動制御などの新しいテクノロジーにも目を向け、最善の手だてを組み合わせた結果として出来上がったサービスが「スマートコンストラクション」だ。
この取り組みの責任者に話を聞いたことがあるが、「IoTビジネス」をやりたかったわけではない。結果として、「IoTビジネス」になっただけだと話していた。
目の前の課題に真摯に向き合い、その課題を解決するために最善の手だてを「今」のテクノロジーに求め、既存のやり方にこだわらず、ビジネスプロセスを変革する――。「IoT」というソリューションは、そのための有効な手だてとなったわけだ。
もちろん、こうした「課題」への切迫感はユーザーにしか分からないだろう。だからこそ、IT事業者やSI事業者はユーザーに寄り添い、ITの専門家の立場から一緒になって課題解決に取り組まなくてはならない。そのとき、ユーザーから求められたテクノロジーを提供するだけではなく、新しいテクノロジーを前提にビジネスプロセスの「あるべき姿」を示し、既存のビジネスプロセスの変革を共に考え、促すことも大切な役割となる。
いつの時代も最適解は新しい。1年前の最適解は、今は最適解ではないかもしれない。そして、その変化を生み出すテクノロジーの進化は、これまでになく加速している。そういう新しい常識を常に懐に携えて、ユーザーのビジネスプロセスの変革に貢献することが、結果として「IoTビジネス」になる。
「IoTビジネスをする」とは、テクノロジー提供者あるいはその組み合せのプラットフォームを提供するビジネスをすることか、テクノロジーを懐に携えてユーザーのビジネスプロセスの変革に貢献することかのいずれかだ。
IoTに関連したインフラを構築する、システムを開発する、運用管理や保守作業を請け負うといったビジネスは、既存のビジネスが抱える自動化や自律化、クラウド化などによる工数の減少や単金の低下といった課題をそのまま引き継ぐことになり、需要はあっても利益の出ないビジネスであることに変わりはない。「IoTビジネス」でこの現実を変えたいというのであれば、自分たちが提供するビジネス価値を変えていくことを覚悟すべきだろう。
著者プロフィル:斎藤昌義
日本IBMで営業として大手電気・電子製造業の顧客を担当。1995年に日本IBMを退職し、次代のITビジネス開発と人材育成を支援するネットコマースを設立。代表取締役に就任し、現在に至る。詳しいプロフィルはこちら。最新テクノロジーやビジネスの動向をまとめたプレゼンテーションデータをロイヤルティーフリーで提供する「ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA」はこちら。
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