リコーのITが見せた、デジタル時代における複写機メーカーの戦い方(2/2 ページ)
「ITを経営の武器に」――。デジタル技術が旧来の事業モデルを“破壊”すると言われる現在において、この言葉を実践できるかが企業の存亡にかかわるとされる。リコーが取り組み状況を語った。
IT部門の意識をグローバルで変えるには
また石野氏によると、リコーグループのIT担当者は世界全体で約1700人に上る。世界各地の拠点に分散するIT担当者の意識を変え、グローバルでITのガバナンスを推進していく取り組みもまた大変なものだったという。
そこでリコーグループのITが目指す姿を一致させるために、4つのミッションステートメントと、その実現に必要な10項目の機能フレームワークを定義。フレームワークごとにガバナンスのゴールを設定した。取り組みを進めていく上では、単にゴールを目指すのではなく、必要に応じて状況を見直しながらゴールを再設定するなど、着実に実行することを重視しているという。
例えばデータ活用のための環境づくりでは、一般的にグローバルで情報基盤を統合するために、マスターデータを定義し、標準化することによって蓄積していく仕組みを構築する。そして、蓄積した情報を分析して結果を可視化するダッシュボードを用意するケースが多い。しかしこうしたケースでは、「ほとんど成功せず、情報を蓄積する基盤は『器』になるだけで、ダッシュボードは誰も見ない」(石野氏)という状況に陥ってしまいがちだろう。
そこで同社は、「データコンシェルジュ」という役割を設け、ビジネス課題に悩む事業部門の担当者を支援する体制づくりを進める。データコンシェルジュは、課題解決に役立つデータがそもそも存在するのかといった調査から、データを解決に役立つものとして活用できるまでのサポートを行う。さらに、データサイエンティストによるデータをより高度に活用していくための組織体制を整備していくという。
同社は、こうしたビジネスで活用するための数千項目もの情報を世界中の機器から収集・蓄積しており、その量は1日あたり約500GBにもなる。これらの情報をもとに、交換用トナーの自動配送や機器の遠隔診断、ユーザーへの使用状況報告といったサービスを開発し、提供してきた。現在は高度なビッグデータ分析によって、機器が故障する前に担当者がユーザーのもとに駆け付けられる予防保全サービスの実現に取り組んでいるとのことだ。
石野氏によれば、「ITを経営の武器に」していくポイントは、ITに携わる人材そのものにあるという。
企業がデジタル時代のビジネスで戦い抜くには、IT人材の質も数も足りないとされる。「数が足りないなら、強化していくしかない」(石野氏)との考えから、IT担当者一人ひとりのレベルアップに取り組む。そこではIT担当者を“育てていく”という考えではなく、担当者が“どうなりたいか”という自身の目指す姿を重視している。
IT部門が経営やビジネスの“武器”となるには、多様性がポイントになると石野氏。IT担当者自身の成長に加えて、例えばセキュリティ対策については、米国の担当者をグローバルの責任者に置くなど“日本流”にもこだわらないという姿勢で、同社のIT部門はデジタル時代を戦っている。
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