「Windows 10 S」が企業での利用に向いている理由:Enterprise IT Kaleidoscope(2/2 ページ)
教育機関や学生向けとうたわれている「Windows 10 S」だが、その機能を見てみると、安全性や管理のしやすさなどに配慮されていることが分かる。将来的には、企業向けのWindows 10にも、10 Sの機能が取り入れられていくことだろう。
学生向けのWindows 10 S、普及する可能性は
Windows 10 Sの機能を見ていると、Windows 10 Proにさまざまな制限を付けたOSといえる(簡易版Windows 10ではなく、内部的にはフル機能を持つが、Windows 10 Sとして動作が制限されている)。
米国ではChromebookが普及していることを思えば、Windows 10 Sの戦略はそれほど突飛とは思わない。Surface Laptopに関しては、高額な製品というイメージが強い。ただ、他のPCベンダーから低価格な製品がリリースされるなら、Chromebookに対抗できる可能性も高い。
一方、日本国内では、学生向けというコンセプトでWindows 10 Sが成功するとは思えない。日本のユーザーは学生であってもフルスペックの製品に対するニーズは強い。学校側が、学生のPCに関する管理面を考えて、Windows 10 Sを勧める可能もある。しかし、日本の学校では、学生のPCを一括管理するという考えを持っていないため、米国のようにIntuneなどと合わせた学校向けのソリューションとしてはうまくいかない可能性がある。
また、Windows 10 Educationとの違いをどのように明確化するのかが不明だ。Windows 10 Educationは、Windows 10 Enterpriseを教育機関向けにしたOSだ。機能としては、Windows 10 Enterpriseとほぼ変わらない。ただ、ライセンス形態が、教育機関を対象として一括でライセンスを与えるボリュームライセンスになっている。Windows 10 Sのような制限はない。
Windows 10 Sは、未来の企業向けOSかも?
Surface Laptopに関しては、現在はWindows 10 Sプリインストールモデルしか用意していないが、将来的にはWindows 10 Proをプリインストールして、企業向けに販売されるかもしれない。個人的には、ハードウェアスペックや超薄型のノートPCといったフォームファクターを考えれば、一般企業でもニーズは高いと思う。
秋以降になれば、LTE通信モジュールを搭載し、Always Connected PC(eSIMを搭載し、簡単に通信キャリアと契約して、いつでもPCがネットワークに接続できる)に対応したSurface Laptopも登場するかもしれない(Surface Proには、LTEを搭載した製品が秋以降にリリースされる)。このような通信モジュールを搭載したSurface Laptopなら、一般企業は導入を検討するだろう。
Windows 10 Sに関しては、多くの学生が使うようになるには、Windowsストアに学生がほしいと思うアプリが用意されていくのかが、大きな問題になる。
Microsoftもそのあたりの事情は分かっているため、SpotifyやiTunesなどのアプリケーションを、Windowsストア経由で提供できるようにUWPカプセル化を進めている。ただ、まだまだアプリの数は少なく、多くのユーザーが満足している状況とはいえない。
しかし、企業での利用ということを考えれば、セキュリティ面や管理面からある程度の制限がかけられたり、一括して管理できたりする仕組みがあることは大きなメリットがある。将来的には、Windows 10 ProやEnterpriseに、Windows 10 Sが持つさまざまな機能制限を付け加えられるようになるだろう。
実際、Windows 10 Creators Updateでは、アプリのインストールをWindowsストアからだけに制限する機能が用意されている。ただし、CD/DVDドライブからのインストールができるため、Windows 10 Sほどの制限はない。また、特定のアプリだけをインストールできるようにするなど、制限をグループポリシーで細かく制御することもできない。
こうしたWindows 10 Sが持つ機能制限などは、Windows 10が今後アップデートされていく中で、徐々にWindows 10 ProやEnterpriseに取り込まれるだろう。
Windows 7の延長サポートが切れる2020年以降には、Windows 10においてもデフォルトでWin32のデスクトップアプリケーションのインストールを禁止し、Windowsストアからのみアプリをインストールできるように変わっていくかもしれない。もしかするとWindows 8.1の延長サポートが切れる2023年以降は、Win32アプリケーションの動作が禁止され、UWPアプリもしくは、UWPでカプセル化したアプリケーションしか動作しなくなるといった可能性もある。また、アプリの配布も、Windowsストア、企業の場合は企業ストアなどを使うようになり、認証されたアプリしか動作しなくなるかもしれない。企業としては、アプリケーションのUWP化を計画したり、既存のアプリケーションをUWP化したりすることを検討して行く時期にさしかかっているのだろう。
関連記事
- 写真で見るSurface Laptop
米Microsoftが、クラムシェル型のノートPC「Surface Laptop」を5月2日に発表。Microsoft Storeで実機に触ってきたので、その様子を写真でお伝えしよう。 - MS、新OSとSurface Laptopで教育市場に本腰 巻き返しなるか
教育市場向け施策でグーグルの後じんを拝していたMicrosoftが、本気の施策を打ち出した。その戦略とは? - Microsoft、軽量OS「Windows 10 S」発表 「Chrome OS」対抗
Microsoftの「Chrome OS」対抗OSは「Windows 10 S」という名称で、189ドルからの「Windows 10 education PC」に搭載される。 - Windows 10 Fall Creators Updateの影響を考える
Windows 10のアップデートが、春と秋の年2回、定期的に行われることになった。次のFall Creators Updateの機能については、まだ全貌が見えたわけではないが、企業ユーザーにどんな影響があるのか考えてみよう。 - Windows 10 Creators Updateで、UWPアプリへのシフトが加速する
そろそろ配信が始まると予想される「Windows 10 Creators Update」では、古いWin32ベースのアプリケーションソフトのインストールを制限する機能が提供される。企業向けには、別のストアを用意できるようになっている。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.