シンギュラリティ時代のAIとの働き方とは?(3/3 ページ)
全ての業界は5〜10年で成長が止まり、株価が暴落、経営陣はクビになる?――そんな、シンギュラリティの権威が予想する“破壊”の波をうまく乗りこなし、AIと働く日本の未来を模索する。
未来のために必要な人材と教育
3つ目のテーマ「未来のためにどのような人材と教育が必要なのか」に関しては、経済産業省の伊藤氏が再びリードした。
未来を生きる学びを習慣づける
「今は人 対 AIという構図で語られることが多い。だが、本質は、AIを利用できるのか、できないのかということであり、結果として、AIを利用できる人 対 AIを利用できないヒューマンという構図になる。その鍵になるのが教育である」と指摘。
そして、「日本では、今後、2万校でプログラミング教育が行われることになるが、子どもたちが学ぶプログラミングが20年後に使われているのかは分からない。また、AIはまったく違うものになっている可能性もある。いま、6歳の子どもに何を教育すればいいのか」と疑問を投げかけた。
カーネギーメロン大学のトム・ミッチェル教授は、これに対し、「1つは、歴史や文化などのリベラルアーツを学ぶこと、もう1つは、チームで活動するための学習をすることが大切」と、自らの調査で得た回答を紹介した。
一方、ワファ教授は質問に対し、「子どもが勉強したいことをさせるのが大切」と述べた。「なぜなら、勉強を習慣づけることが重要だからだ。日本でも、将来のキャリアは、終身雇用ではなく、5〜10年で変わるものになるだろう。だが、学習は、一生続ける必要がある。もはや大学という制度はなくなるかもしれない。そして、子どもたちが、ここにいる大人たちと同じレベルで、Watsonを普通に使いこなす時代が訪れることだろう。そうなると、15歳になったら、あっと驚くような仕事ができるようになっているかもしれない。そうした世界で生きるためには、学習することを楽しむ子どもに育てることが大切。学びたいことをやらせるのが一番だ」。
イノベーションこそが大切
また、「失礼になるかもしれないが、正直な話をしたい」と切り出しながら、自らもインド出身であるワファ教授は、「シリコンバレーでは、51%の企業が移民によって立ち上げられた企業だ。そのうち、スタートアップ企業の16%がインド人によるものであるが、人口比では5%にすぎない。日本人は、シリコンバレーに来ても起業はしない。来るだけで何もしないのが実態だ」と指摘。「では、なぜ、インド人はこんなに成功できるのか。それは、汚職が日常的に行われ、ルールを破るのが大好きともいえる国民性があり、それが染み着いているからだ。生き残るには、ルール破りをすることも必要なのだ」とジョークを交えて説明した。
「シリコンバレーに人を送っただけでは、何も変わらない。やり方を変えないと意味がない。シリコンバレーには、巨大なネットワークがあり、人が2〜3年で転職しては、新たなアイデアが、新たな会社で生まれる。そして、失敗を受け入れるという文化がある。ダイバーシティーもある。だが、日本の大企業のようなネームバリューがあっても、相手にしてくれないことが多い。イノベーションこそが大切だからだ。ルールを破ってでも競争するという姿勢は、日本も獲得する必要があるのではないだろうか。例えば日本IBMの社員には、日本IBMを破壊し、廃業させるようなアイデアが求められているという。ルールを破って、挑戦してほしい。そうすれば日本は成功する。すばらしいオポチュニティがある。私は日本が大好きだからこそあえて提案する。ぜひ、生まれ変わって、次のレベルに上がってほしい」と提言した。
最後に、経済産業省の伊藤氏が「政府は、働き方改革の次のステップとして、『人づくり革命』に取り組み、政府が革命をリードしていく。名前に恥じない『人づくり革命』をしなくてはならない」とし、「これまでの働き方改革は、労働時間の問題ばかりがクローズアップされた。労働時間を短くしようという発想の前提には、働くことは嫌なことであるという認識があった。ロボットの語源は、チェコ語で、『強制された労働』という意味がある。AIやロボットには、強制された仕事をやってもらい、人は、強制されていないクリエイティビティな仕事に向かわなくてはならない」と語った。
働き方改革は、労働時間短縮の観点や、子育て支援、介護支援のための仕組みという考え方にとどまらず、生産性を高め、競争力を高めるための取り組みであるという考え方が広がりつつある。その上で、AIやロボットの活用はプラスに働くというのが、基本的な考え方だ。
そして、AIやロボットをより効果的に活用するには、AIに仕事が置き換えられるという議論ではなく、AIが人を支援するために活用するという仕組みづくりが必要であり、それに向けた教育も重要な意味を持つことが明らかにされた議論でもあった。
その一方で、テクノロジーによる破壊の波は、多くの人が思っている以上に、短期間に巨大な波となって訪れると断言するワファ教授の意見には、驚きを感じざるを得ない部分もあった。これをどう捉え、どう準備をするがこれからの課題といえるだろう。
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