IoTは何を壊し、何を創造するのか 2つの大きなパラダイムシフトを読み解く:デジタル改革塾(2/3 ページ)
私たちの仕事やくらしを大きく変えつつあるIoT。このトレンドは、社会にどのような価値をもたらし、IT部門の仕事をどう変えていくのだろうか。
IoTによって生まれる「サイバーフィジカルシステム」の正体
この、“急激な変化”とはどのようなものなのか。斎藤氏は、「まずは、アクティビティー(活動状況)のデジタル化が起こる」という。
「人が“センサーのかたまり”であるスマートフォンを持ち歩くだけで日常生活がデジタル化され、ウェアラブルデバイスによってバイタルデータや眠りの深さまでがデジタル化される。人の身体の状態がことごとくデジタルデータに置き換えられてネットに送られるという、これまでにない社会の仕組みができていく」(斎藤氏)
こうしたデジタル化の流れは、“人の状態の可視化”だけにとどまらない。「人々を取り巻く環境、例えば建物や交通、道路、航空機や鉄道、気象など、社会全体が、その状態も含めてデジタル化されるという環境が、確実にできていく。つまり、われわれのアナログな日常生活や行動がデジタルデータに置き換えられ、ネットに送られる」(斎藤氏)。
IoTの仕組みによってネット上に送り出される膨大なデータはビッグデータとなり、そのビッグデータをAIで解析することで、そこから課題の原因を解明したり、さまざまな発見や洞察、知識を得ることができようになる。これがIoTが創造する未来の姿だ。
「多くのセンサーやデバイスで収集したビッグデータをAIで解析し、その結果をアプリケーションや業務サービスに送り返して、再び現実世界を動かしていくようになる」(斎藤氏)。
今、まさにわれわれは、こうした社会基盤の上で仕事をし、生活していることになる。この一連の仕組みが「サイバーフィジカルシステム」だ。
「現実の世界をセンサーで捉え、デジタルデータとしてネットに送り出す――という、この一連の仕組みのことをIoTと定義するという考え方がある。一方で、いくらデータを集めても、それを利用する仕組みまで含めなければ、本質的な価値を生み出すことはない。そこで、AIによるビッグデータの解析までを含めたサイバーフィジカルシステムそのもののことを『広義の』IoTと呼ぶという考え方もある」(斎藤氏)
IoTがもたらす2つのパラダイムシフトとは
サイバーフィジカルシステムによって現実世界のさまざまな出来事がセンシングされ、次々にデジタル化されてネット上に送られると、そこには現実世界とは別のデジタル化された電脳世界が生まれる。それがいわゆる「デジタル・コピー」や「デジタルツイン」とよばれるものだ。
こうした仕組みは、ビジネスにも大きな変化をもたらす。これまでは、さまざまな事業課題の発見や仮説の設定は人間が行っていたが、IoTが進展すると、そこにセンサーが入ってくる。
「センサーが入ることによって、これまでとは比較にならないほど膨大なデータが発生することになる。IoT機器を通じて収集されるデータは種類が豊富な上、ほぼリアルタイムのきめ細いタイミングで集めることができる。こうしたビッグデータをAIで解析し、業務プロセスを改善してアプリケーションに適用していく、いわゆる『データ駆動型』社会にどんどん近づいていく」(斎藤氏)
さらに、この仕組みにロボットが埋め込まれると、ロボット自身がデータを取得して自ら学習して判断し、行動するようになる。つまり、“自ら意思決定を行い行動する自律型ロボット”が誕生するわけだ。
「IoTの進展によって、“サイバーフィジカルシステム社会の実現”と“モノのサービス化”というパラダイムシフトが起ころうとしている」(斎藤氏)
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