世界はQRコードでできている バイクシェアに見る中国と日本の違い:成迫剛志の『ICT幸福論』
中国・深センで見つけたバイクシェアの仕組みを、日本の仕組みと比較してみると、ユーザー目線で見た“本当に必要なこと”が見えてきた。“破壊的イノベーション”を加速する、意外な仕組みとは?
この記事は成迫剛志氏のブログ「成迫剛志の『ICT幸福論』」より転載、編集しています。
世界はソフトウェアでできている。
これは、楽天の吉岡氏(@hyoshiok)がパネルディスカッションで述べ、それを後日、元グーグルの及川氏(@takoratta)がメディア取材で引用して有名になった言葉だ。
今や、さまざまなイノベーションはソフトウェアによって生み出されている。ハードウェア的な制約があったとしても、ソフトウェア的にその制約を乗り越え、ソリューションを開発できる。それが他社よりも先にイノベーションを世に送り出すことにつながる――そんな意味である。
先日、数年ぶりに中国・深センを訪れた。ほんの数時間の滞在だったが、そこで目にした光景は、「世界はQRコードでできている」ともいえるものだった。
その一例として、中国と日本のバイクシェア(自転車シェア、シェアサイクル)の仕組みを比較してみよう。
これが都内でよく見かけるバイクシェアの光景である。1台ずつのタイヤ留めが設置された専用の場所で借りて、同じく専用の場所で返却しなくてはならない。
一方、こちらが中国・深センのバイクシェアの様子だ。まるで駅前の放置自転車のような状態である。さまざまなバイクシェア事業者の自転車が入り乱れている。利用者は、好きな事業者の自転車を見つけて借り、自分の行き先で適当な場所に乗り捨てることができるようだ。専用の場所に返して、そこから最終目的地に徒歩で移動する必要はない。
日本はなかなかのハイテク仕様。SuicaなどのICカードをかざすリーダー、テンキー、そしてディスプレイが装備されている。
利用者は、あらかじめ会員登録する必要がある。専用の機械で自分の手持ちのICカードかおサイフ携帯を登録し、それを自転車のリーダーにかざすと鍵が開く仕組みである。
一方、こちらが中国・深センのバイクシェアの仕組み。普通のものより少しゴツい鍵、そこにQRコードが印刷されている。それだけだ。ICカードリーダーも、テンキーも、ディスプレイもない。
このQRコードを使い、スマホ決済サービス「アリペイ(支付宝)」や「ウィーチャットペイ(微信支付)」で支払いを済ませると、自動的に自転車のカギが開く仕組みのようだ。残念ながら中国の一時滞在者がアリペイやウィーチャットペイを登録することは難しく、私自身が試すことはできなかったが、少なくとも深センに住んでいる人の多くはすでにアリペイやウィーチャットペイを登録しているだろうから、自転車を借りるために別途会員になったり、事前登録したりする必要はなさそうだ。
このQRコードは、単なるQRコードであって、自転車鍵と電気的につながっているわけではない。そのため、わざわざしゃがみこんで鍵に貼り付けてあるQRコードにスマホをかざす必要はなく、ハンドル部分のQRコードを使えばいい。
利用者は、借りたい自転車を見つけたら、そのままハンドル部分のQRコードにスマホをかざせばいい。するとクラウド上で決済が行われ、その情報がクラウド上でバイクシェア事業者に渡され、バイクシェア事業者のクラウド上のシステムからその自転車の鍵に対して解錠命令が飛び、自転車の鍵が開く。そんなシンプルな仕組みだと推測される。
こうして見ると、今、中国では、「ユーザー目線で本当に必要なことを突き詰め、それを最も簡単な仕組み=最もコストの安い仕組みで実現し、一気に普及が進む。その最も簡単な仕組みを、QRコードが支える」――という、“破壊的イノベーション”が起こっていることが分かる。まさに「世界はQRコードでできている」のである。
そして、その波は中国から世界に普及し始めているように思う。僕らも、もっとシンプルに考える必要がありそうだ。
著者プロフィール:成迫剛志
SE、商社マン、香港IT会社社長、外資系ERPベンダーにてプリンシパルと多彩な経験をベースに“情報通信技術とデザイン思考で人々に幸せを!”と公私/昼夜を問わず活動中。
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