ゼロからIT部門を作り直した――急成長する不動産企業「オープンハウス」の舞台裏:【特集】Transborder 〜デジタル変革の旗手たち〜(1/4 ページ)
都心の戸建て住宅というビジネスがヒットし、急成長する不動産企業の「オープンハウス」。その裏にはIT活用の進化もあるようだ。PCのお守りしかしていなかったというIT部門が、先端ITを使いこなす内製部隊に生まれ変わった背景を追った。
「都心にマイホーム」。一昔前ならば“高根の花”とされていた好立地の一軒家だが、最近では状況が変わりつつあるという。1987年に建築基準法が改正されて以降、木造三階建て住宅を建設する自由度が高まったことから、手ごろな価格帯の戸建て住宅が増えているという。
こうした背景から、昨今大きく業績を伸ばしているのが、1997年に設立したオープンハウスだ。5期連続で過去最高の売上高と利益を更新し続け、最新の2017年9月期でも、前年比で20%以上の成長を遂げている。
従来、敬遠されがちだった狭小地や、いびつな土地などに目を付けた戦略が奏功したのもあるが、この急成長の裏には、IT活用の進化もあるようだ。同社最高情報責任者(CIO)の田口慶二氏はこう話す。「ビジネスとしては不動産企業ですが、実際にやっていることはもうゴリゴリのIT企業だと思っています」
ゼロベースでIT部門を“再”立ち上げ、30人の組織に
田口氏がオープンハウスに入社したのは2014年のこと。それまではNTTや日本ベリサイン、イオンなどさまざまな企業を渡り歩き、EC基盤開発やマーケティング、新規事業開発などを手掛けてきたという。入社当時、オープンハウスのIT部門は「PCのお守りをしていたくらいだった」と田口氏は振り返る。
「当時、IT部門は5人もいないくらいで、そこからメンバーやチームビルディング、マネジメントまで全てを変えました。もうスクラッチでIT部門を作ったようなイメージです。企業の成長を考えたときに、『このままのIT部門では、経営が目指す売り上げを達成できない』という問題意識があり、ゼロベースで作るしかないという考えに至りました」(田口氏)
生まれ変わったIT部門では、iPhoneやG Suiteによる業務改革や、基幹系システムのクラウド移行、グループ全体ネットワークの刷新などを行ってきた。今では日本ではグループ全体で約10人、オフショアのプログラマーが約20人と、合計30人くらいの組織になり、スピードを重視するため、システムは全て内製で開発しているという。それでも、同社のIT投資額は「一般的な一部上場企業に比べると1/5程度であり、売上対比でも非常に少ない」(田口氏)とのことで、今後も積極的に投資を増やしていく考えだ。
迅速な内製開発を進めるには、エンジニアの事業理解が深いことも不可欠だ。その点を田口氏は重要視しているという。
「基本的に『事業が分からなければ、IT部門に来るな』と言っています。あくまでもITは手段の1つにすぎません。何らかの経営課題を解決するときに“安い、うまい、早い”といったITのメリットを発揮できるポイントで使うことが大切なのです。内製開発ではコンセプトメイクやProof of Concept(PoC)が非常に重要なので、不動産のビジネスモデルや現場で起きている課題を真摯(しんし)に受け止め、理解できることが前提条件となります。
エンジニアには外国籍のスタッフもいますが、日本ならではの文化や風土もしっかりと伝えます。それを理解していないと、ボタンを掛け違ったアウトプットができ上がる。IT部門の人たちの給料は、営業の仕事から生まれています。だからこそ、傲慢にならずにアウトプットで結果を出していく。米MIT Media Lab所長の伊藤穣一氏が言った“Deploy or Die(とにかく作れ)”という言葉はよく使っています」(田口氏)
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