私の働き方と人生を一変させた、ある先輩の痛烈な一言:榊巻亮の『ブレイクスルー備忘録』(2/3 ページ)
仕事は上司の期待値の1〜2%上をいく、ポイントを押さえてそつなく、効率よくこなせばOK――そんなふうに考えていた新入社員時代のある日、先輩からくらった強烈な一言をきっかけに、著者の身に起こったこととは?
「くそ。やってやろうじゃないか」
数日は、腹が立って仕方がなかった。でも、時間がたつにつれ考えが変わってきた。
「そう言われると、確かに全力でやってない……。一度くらいやってみるか」
その努力は、無駄になるかもしれない。むなしいだけかもしれない。むしろ悪い方に転ぶかもしれない。それでも、これだけ言われたら、引き下がれない。
そして、1カ月、全力でやってみた。
結果は……、想像と正反対だった。
確かに仕事は増えた。それまで月間20棟しかやってなかった仕事が、35棟に増えた(実際に数字で残っている)。
僕の守備範囲は月間20棟なのだが、誰がやるはずだった15棟分の仕事を取ってきていた。当たり前だが、仕事をすればするほど、後工程からの問い合わせや、トラブル対応も増える。
そんなこんなで、仕事は倍くらいに増えたが、精神的なストレスは半分以下になった。
何が起こったかというと、
- 自分からガンガン仕事を取りに行くので、指示されることがなくなった。
- 自分が好きで仕事を取りに行っているので、他責にすることが減った。
- つまり「自分の仕事はここまで」というテリトリー意識がなくなった。「もっとこうした方がいい。こうすればよいのに」と思うことはよくあるが、だいたい自分の仕事の範囲外である。でも、テリトリー意識がなくなったので、自分で動いて解決してしまえばよくなった。
- しかも、「やれやれ」と思って対応するのではなく、「自分の仕事だ」と思って対応するので、精神衛生上、格段によくなった。
- さらに、他人の仕事をもらいまくっていたので、周囲の人との関わりが劇的に増えた。
- 関わりが増えると、新しい問題点やボトルネックが見えてきて、また仕事のタネが増える。
- 新たに出てきた仕事のタネは、たいていルーティンワークではなく、ちょっと頭を捻る必要がある仕事だったので、さらに仕事が楽しくなる。
- 結果、極端にいうと仕事が「苦役、労役」ではなく「趣味、楽しみ」になった。
この経験は衝撃だった。
予想したことと逆のことが起こったのだ。「仕事は増やしたくない」「仕事は嫌いだ」と思っていたのだが、この経験以降、仕事が圧倒的に楽しくなった。やがて、他の部署からも声を掛けてもらうようになり、相談に乗ったり、新しいことを始めたりすることが増えていった。同時に感謝されることも劇的に増えた。
自分から進んで何かをやった結果、人に感謝されるのである。
何もしてなかったときに比べて仕事は増えているのだが、すごく気持ちが軽やかになった。「また何か余計な仕事をしちゃおうかな」というエネルギーが自然とたまっていく。そしてまた新たな行動を起こし、感謝される。
そして、この循環が、本来の仕事なんじゃないかと感じたのだ。
※実は、このような経験は初めてではなく、学生時代にマクドナルドのアルバイトで経験していたことに、ずっと後で気付いた。
見返りを求めて全力投球したわけではない
面白いのは、「上司の評価を得たくて全力を投じたわけではない」ということ。純粋に、一度全力を出してみたかっただけだ。
その結果、次々と面白いことが起こり、仕事がなんだか楽しくなった。少しタイムラグがあって、上司からの評価も上がった。
でも、仮に上司から評価されなかったとしても、影響はなかったと思う。
表現が正しいのか分からないが「仕事の損益分岐点」を超えた感じだった。
今だからよく分かるが、「上司の評価」なんてあやふやなものより、「自分が仕事を楽しいと思う」ことの方がはるかに価値がある。人生の大半の時間を投入する仕事が“楽しい”と感じられるなら、一生楽しく過ごせることになる。今、この瞬間の他人の評価など、それに比べたらささいな問題だ。
スポーツでも習い事でも、同じだと思う。「一度始めたことは最後までやり通せ」なんて考え方は古い。ダラダラ続けることほど不幸せなことはない。でも、全力を投じないままスポーツに愛想を尽かすのはもったいない。一度くらいは全力で取り組んでみてほしい。それでもだめならスッパリやめたらいいと思うのだ。
同じように、仕事に愛想を尽かすのは、一度くらい全力を出してみてからでも遅くない。必死にジタバタしてみる時期があってもいいじゃないか。
損益分岐点を超えたときに、新たなパラダイムが見えるのかもしれない。
全力を出した結果、「イマイチだな」「違うな」と思うなら、さっさと転職して「楽しい」と思える仕事を探した方がいい。
仕事を諦めて小さくまとまるのは、最後の手段にしてほしいものだ。きれいごとかもしれないが、「仕事は楽しむもの」であってほしいから。
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