課題が分からない? 「情報通信白書」にみる日本企業の深刻なクラウド事情:Weekly Memo(2/2 ページ)
総務省が先頃、日本のICT産業における現状や課題をまとめた「平成30年度版 情報通信白書」を公表した。その中から、日本企業の深刻な課題が浮き彫りになったクラウド事情を取り上げたい。
ツケが回ってきた“業者任せ”の情報システムづくり
一方、企業がクラウドサービスを利用する際の課題については、「セキュリティの担保」「改修コスト・通信コストの増加」「カスタマイズ性の不足」の3つを例として挙げた。
それぞれの背景をもう少し説明しておくと、セキュリティの担保については「オンプレミスであれば社内ネットワークのみにつながったサーバに重要なデータを置くことが可能だが、一般的にクラウドサービスはインターネットに直接接続されたサーバ上にデータを置くことになるので、情報漏えいのリスクが高まる」とのことだった。
改修コスト・通信コストの増加については、「既存のシステムとクラウドサービスの接続性を担保するために、システム改修にコストがかかる。データやサービスを利用する際に通信が発生することから、通信コストが増加する」。カスタマイズ性の不足については、「クラウド上で提供されているサービスを組み合わせても、必要な社内システムを再現するためのカスタマイズ性が不足している可能性がある」としている。
白書ではこの後、これまで述べてきたクラウドサービスの効果や課題に対する認識について、企業向けの国際アンケート調査の結果を紹介。クラウドサービス導入の効果については図3に示すように、回答者全体では「システムの拡張性が高い」「迅速にシステムが変更できる」などの回答率が高い。一方で、日本企業はコストの安さに関する回答率が最も高くなっており、プロダクトに資する項目の回答率が諸外国と比べて低くなっている。
そして、筆者が最も取り上げたかったのが図4だ。この図は、クラウドサービスに対する課題の認識状況を示したものである。日本企業では「課題が分からない」との回答が、諸外国と比較して大きな割合を占めている。白書ではこの点について「わが国企業でクラウドサービスの導入が進まない背景には、明確な課題が認識されているわけではなく、どのような課題があるかも認識されていない状況にあることが示唆される」との見方を示している。
やはり……という感想をお持ちの読者諸氏も少なくないだろう。これは非常に深刻な状況だと受け止めるべきだ。すなわち、これまで日本企業の多くが情報システムづくりをシステムインテグレーターなどのサービス会社に委託、いや“丸投げ”してきたツケが回ってきたのである。
とはいえ、手をこまねいているわけにはいかない。クラウドの導入検討を機にデジタルトランスフォーメーションも合わせて、経営トップがリーダーシップを発揮し、回ってきたツケに対して一大変革を起こすべきだと考える。
最後にあらためて。冒頭でも述べた通り、情報通信白書はICTに関する国内最大の統計資料でもあるので、ぜひ夏休みの機会にでも目を通していただきたい。
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